くまモンやドコモのiDのデザインを手がけた水野学さんの著書「センスは知識からはじまる」。センスは生まれつきの才能ではなく、知識の集積によって磨かれるものだと説く本書の重要ポイントをまとめました。
センスに対する固定観念を覆し、誰でも身につけられるスキルとして再定義する水野さんの視点は、クリエイティブな仕事に携わる人だけでなく、あらゆる分野で応用できる普遍的な知恵に満ちています。
センスとは何か
「センスがいい」という言葉を聞くと、なんだか生まれつきの才能のように感じてしまいますよね。私もずっとそう思っていました。「あの人はセンスがいいから」と言われると、それ以上の説明が不要な、なんとも便利な言葉。でも、この本を読むと、そんな思い込みがガラガラと崩れていきます。
水野さんによれば、センスとは「数値化できない事象を最適化する能力」なのだそうです。つまり、明確な正解がない問題に対して、最適な解決策を導き出す力。これって、ビジネスでもプライベートでも、日常のあらゆる場面で必要とされる能力ですよね。
数値化できない事象を最適化する能力
私たちの生活は、数値化できることと、できないことの両方で成り立っています。例えば、企業の売上や利益は数値化できますが、商品のデザインやブランドイメージは数値化が難しい。でも、その数値化できない部分こそが、ビジネスの成功を左右することも少なくありません。
水野さんは、この数値化できない領域こそがセンスの出番だと言います。「このデザインはいい」「このネーミングはしっくりくる」といった判断は、数式では表せないけれど、確かな根拠に基づいた判断なのです。
生まれつきの才能ではなく研鑽できるもの
「センスは生まれつきのもの」という思い込みは、実はセンスを磨く上での最大の障壁かもしれません。水野さんは、センスは誰でも鍛えることができると断言します。
例えば、ファッションのセンスがいい人は、色の組み合わせや素材感、シルエットなどについての知識が豊富です。料理のセンスがいい人は、食材の特性や調理法、味の組み合わせについての知識を持っています。つまり、センスとは特定の分野における知識の蓄積と、その知識を活用する能力なのです。
これはなんだか希望が持てる話ですよね。「私はセンスがないから」と諦める必要はないのです。知識を増やし、それを活用する経験を積めば、誰でもセンスを磨くことができるのです。
知識の集積がセンスを生み出す
センスを磨くためには、まず知識を集めることから始めましょう。でも、ただ闇雲に情報を集めればいいというわけではありません。水野さんは、知識を集める際のポイントをいくつか挙げています。
まず、その分野の「王道」から学ぶこと。例えば、デザインを学ぶなら、まずは古典的な名作から触れていく。次に、今流行しているものを知ること。そして、それらの共通項や法則性を見つけること。
こうして集めた知識は、やがて自分の中で有機的につながり、新しいアイデアを生み出す源泉となります。知識が増えれば増えるほど、その組み合わせの可能性は爆発的に広がるのです。
「普通」を知ることの重要性
センスを磨く上で意外に重要なのが、「普通」を知ることだと水野さんは言います。「普通」って、なんだか退屈で魅力のないものに聞こえるかもしれません。でも、「普通」を知らずして「非凡」は生まれないのです。
良いものと悪いものの中間点を理解する
「良いもの」と「悪いもの」の中間にあるのが「普通」です。水野さんによれば、センスを磨くためには、まずこの「普通」をしっかりと理解することが大切だと言います。
例えば、ファッションで言えば、流行の最先端を行くスタイルも、完全に時代遅れのスタイルも、一般的な人にとっては「普通」ではありません。多くの人が無難に着こなせるスタイルこそが「普通」なのです。
この「普通」を知ることで、初めて「良いもの」と「悪いもの」の違いが分かるようになります。「普通」を基準点として、そこからどう変化させれば「良いもの」になるのか、どこをいじると「悪いもの」になってしまうのかを理解できるようになるのです。
判断基準を持つことがセンスの土台になる
「普通」を知ることは、自分の判断基準を持つことにつながります。判断基準がなければ、目の前のものが良いのか悪いのか、判断することができません。
水野さんは、この判断基準を持つことこそがセンスの土台になると言います。例えば、ある商品のデザインを評価する際、「なんとなくいい」という感覚だけでは不十分です。なぜそれが「いい」と感じるのか、その理由を説明できる判断基準を持っていることが重要なのです。
この判断基準は、知識の蓄積によって形成されます。多くの事例に触れ、それらを比較検討することで、自分なりの判断基準が徐々に形成されていくのです。
思い込みと主観はセンスの敵
センスを磨く上での最大の敵は、思い込みと主観だと水野さんは警告します。自分の好みや思い込みに縛られていると、客観的な判断ができなくなってしまうのです。
例えば、「私は赤が好きだから、この商品も赤にすべき」という判断は、主観に基づいたものです。しかし、ターゲットとなる顧客層や商品のコンセプトによっては、赤が最適な選択とは限りません。
センスを磨くためには、自分の好みや思い込みを一度脇に置き、客観的な視点で物事を見る姿勢が大切です。そのためには、多様な知識を持ち、様々な視点から物事を考える習慣を身につけることが必要なのです。
知識を増やす3つの方法
センスを磨くためには知識を増やすことが重要だと分かりましたが、では具体的にどのように知識を増やしていけばいいのでしょうか。水野さんは、知識を増やすための3つの方法を提案しています。
王道から解いていく
まず最初に取り組むべきは、その分野の「王道」を学ぶことです。王道とは、長い時間をかけて多くの人に評価され、残ってきたものです。
例えば、音楽を学ぶならクラシックから、映画を学ぶなら名作と呼ばれる作品から、デザインを学ぶなら歴史に残る名作から始めるべきだと水野さんは言います。
なぜなら、王道には「なぜこれが良いとされるのか」という理由が必ずあるからです。その理由を理解することで、自分の中に確かな判断基準が形成されていきます。
私も以前、写真を学び始めた時に、まずは写真史に残る名作を見ることから始めました。最初は「なぜこれが名作なのか分からない」と思うこともありましたが、解説を読みながら繰り返し見ているうちに、少しずつその価値が分かるようになってきました。これは、まさに王道から学ぶことの効果だったのだと思います。
今、流行しているものを知る
次に大切なのは、今現在流行しているものを知ることです。王道が過去の蓄積であるのに対し、流行は現在進行形の価値観を反映しています。
流行を知ることで、時代の空気感や人々の価値観の変化を捉えることができます。また、流行の中には、次の時代の王道となるものも含まれています。
水野さんは、流行を知るためには、常にアンテナを張り、様々な情報に触れることが大切だと言います。雑誌やウェブサイト、SNSなど、様々なメディアを通じて情報を集め、自分の中に取り込んでいくのです。
ただし、流行に振り回されないことも重要です。流行は一時的なものであり、すべてが価値あるものとは限りません。流行を知りつつも、自分の判断基準に照らし合わせて、本当に価値あるものを見極める目を持つことが大切なのです。
共通項や一定のルールを見つける
最後に、集めた知識の中から共通項や法則性を見つけることが重要です。単に情報を集めるだけでは、それはただのデータの山に過ぎません。そのデータから意味のあるパターンや法則を見出すことで、初めて知識として活用できるようになるのです。
例えば、多くのヒット商品に共通する特徴や、成功したプロジェクトに共通する要素を見つけることで、「なぜこれが成功したのか」という理由が見えてきます。
水野さんは、この共通項や法則を見つけるためには、常に「なぜ」という問いを持ち続けることが大切だと言います。「なぜこれが人気なのか」「なぜこのデザインは評価されるのか」と問い続けることで、表面的な情報の奥にある本質を見抜く力が養われるのです。
イノベーションと知識の関係
センスを磨くことは、単に既存のものを評価する能力を高めるだけではありません。それは新しい価値を創造する、つまりイノベーションを生み出す力にもつながります。水野さんは、知識とイノベーションの関係について、興味深い視点を提供しています。
知識と知識の掛け合わせがイノベーションを生む
イノベーションは、無から生まれるものではありません。それは既存の知識や技術の新しい組み合わせから生まれるものだと水野さんは言います。
例えば、iPhoneは、電話、インターネット、音楽プレーヤー、カメラなど、既存の技術を一つの端末に統合することで、新しい価値を生み出しました。これは、異なる分野の知識を掛け合わせることで生まれたイノベーションの好例です。
水野さんによれば、知識が増えれば増えるほど、その組み合わせの可能性は爆発的に広がります。10個の知識があれば、その組み合わせは数百通りになります。100個の知識があれば、その組み合わせは天文学的な数になるのです。
だからこそ、幅広い分野の知識を持つことが重要なのです。自分の専門分野だけでなく、一見関係なさそうな分野の知識も、思わぬところでイノベーションの種になるかもしれません。
過去の延長線上に「ありそうでなかったもの」がある
水野さんは、イノベーションとは「ありそうでなかったもの」を生み出すことだと言います。つまり、全く新しいものを作るのではなく、既存のものの延長線上にあるけれど、まだ誰も思いつかなかったものを生み出すことなのです。
例えば、Amazonは書店の延長線上にあるサービスですが、実店舗の制約を取り払い、膨大な在庫と便利な検索機能を提供することで、新しい価値を生み出しました。Uberはタクシーの延長線上にあるサービスですが、スマートフォンの普及を活かし、配車の仕組みを根本から変えることで、新しい体験を提供しています。
これらは、過去の知識を基盤としながらも、そこに新しい視点や技術を加えることで生まれたイノベーションです。過去を知らなければ、その延長線上にある可能性も見えてこないのです。
過去の知識に基づいて未来を予測する
センスとは、未来を予測する力でもあると水野さんは言います。過去の知識と現在の状況から、次に何が起こるかを予測する能力です。
例えば、ファッションの世界では、過去のトレンドの循環を知ることで、次に来るトレンドを予測することができます。テクノロジーの世界では、技術の進化のパターンを知ることで、次に普及する技術を予測することができます。
この予測能力は、ビジネスにおいても非常に重要です。市場の変化を先読みし、競合他社に先んじて新しい商品やサービスを提供することができれば、大きなアドバンテージになります。
水野さんによれば、この予測能力も知識の蓄積によって磨かれるものです。過去の事例をたくさん知り、そこから法則性を見出すことで、未来を予測する精度が高まっていくのです。
感想・レビュー
水野さんの「センスは知識からはじまる」を読み終えて、なんだか肩の力が抜けた気分です。「センスがない」と思い込んでいた自分に、「そんなことないよ、知識を増やせばいいんだよ」と優しく語りかけてくれるような本でした。
センスの定義が明確になった喜び
正直に言うと、私はずっと「センス」という言葉に苦手意識を持っていました。「センスがいい」と言われる人がうらやましくて、でも自分にはそんな生まれつきの才能はないんだろうなと、半ば諦めていたんです。
でも、この本を読んで、センスとは「数値化できない事象を最適化する能力」であり、それは知識の蓄積によって誰でも磨けるものだと知って、なんだかホッとしました。
特に印象に残ったのは、「センスの最大の敵は思い込みと主観」という言葉です。自分の好みや思い込みに縛られていると、客観的な判断ができなくなってしまう。これは、私自身が日常的に陥りがちな罠だと感じました。
例えば、「私はこのデザインが好きだから、これが一番いい」と思い込んでしまうことがあります。でも、それは単なる個人的な好みであって、客観的に見て最適なデザインとは限らないんですよね。そんな当たり前のことに気づかされた瞬間でした。
実践的なアドバイスの数々
この本の素晴らしいところは、単にセンスについての理論を語るだけでなく、具体的な実践方法も提示してくれるところです。
特に「知識を増やす3つの方法」は、すぐにでも実践できる具体的なアドバイスでした。「王道から解く」「今、流行しているものを知る」「共通項や一定のルールを見つける」という3つのステップは、どんな分野でも応用できる普遍的な方法だと思います。
また、「普通」を知ることの重要性も、非常に納得できる内容でした。「普通」を知らずして「非凡」は生まれない。これは、創造性を発揮する上での重要な視点だと感じました。
水野さんの文章は、専門的な内容でありながらも、とても読みやすく、親しみやすいものでした。難解な概念も、身近な例を用いて分かりやすく説明されていて、読んでいて苦になりませんでした。
日常生活での応用方法
この本で学んだことは、ビジネスやクリエイティブな仕事だけでなく、日常生活のあらゆる場面で応用できると感じました。
例えば、ファッションのセンスを磨きたいと思ったら、まずはファッション史の名作や定番アイテムを知り、次に今の流行を観察し、そこから共通するルールや法則を見つける。そうすることで、自分なりのファッションセンスが磨かれていくのです。
料理のセンスを磨きたいと思ったら、まずは基本的な料理の技法や定番メニューをマスターし、次に今のトレンドを知り、そこから共通するルールや法則を見つける。そうすることで、自分なりの料理センスが磨かれていくのです。
水野さんは、センスを磨くための具体的な方法として、「書店を5分で一周して気になったものを確認する」という実践方法も紹介しています。これは、自分の無意識の好みや興味を知るための簡単な方法で、すぐにでも試してみたいと思いました。
また、「人生の先輩と話してセンスの底上げをする」というアドバイスも印象的でした。異なる世代の人との対話を通じて、自分とは違う視点や価値観に触れることで、センスの幅が広がるというのは、なるほどと思いました。
まとめ
水野学さんの「センスは知識からはじまる」は、センスという曖昧で捉えどころのない概念を、明確に定義し、その磨き方を具体的に示してくれる貴重な一冊です。
センスは誰でも磨ける能力
この本の最大のメッセージは、センスは生まれつきの才能ではなく、知識の蓄積によって誰でも磨くことができるというものです。これは、「センスがない」と諦めていた人にとって、大きな希望となる言葉ではないでしょうか。
センスとは「数値化できない事象を最適化する能力」であり、それは知識の蓄積と、その知識を活用する経験を通じて磨かれていくものなのです。
知識を集め続けることの大切さ
センスを磨くためには、知識を集め続けることが大切です。特に、その分野の「王道」を知り、今の流行を観察し、そこから共通するルールや法則を見つけるという3つのステップは、どんな分野でも応用できる普遍的な方法です。
また、「普通」を知ることの重要性も忘れてはなりません。「普通」を基準点として初めて、「良いもの」と「悪いもの」の違いが分かるようになるのです。
これからのセンス時代を生き抜くために
水野さんは、技術がピークを迎えるとセンスの時代がやってくると言います。つまり、技術的な差別化が難しくなると、センスによる差別化が重要になるのです。
これからの時代を生き抜くためには、センスを磨き続けることが不可欠です。それは、ビジネスにおいても、プライベートにおいても、私たちの生活のあらゆる場面で役立つスキルとなるでしょう。
水野さんの言葉を借りれば、「センスはすでに、あなたの中にある」のです。あとは、それを知識の蓄積によって磨き上げていくだけなのです。
この本は、センスについての新しい視点を提供してくれるだけでなく、具体的な実践方法も示してくれる、非常に実用的な一冊です。センスに悩む全ての人に、ぜひ手に取ってほしい本だと思います。



