多様な人々が協力し合い、社会的価値を生み出す「共創」という概念が注目される現代。
しかし、実際にどのように共創を実現すればよいのか、その具体的な方法論は明確ではありませんでした。吉備友理恵さんと近藤哲朗さんの共著『パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた』は、そんな悩みに応える一冊です。
本書では、プロジェクトの中心となる「パーパス(共通目的)」を軸に、多様なステークホルダーの関わり方を可視化する「パーパスモデル」という手法が紹介されています。
利益追求だけでなく、社会的価値の創造に向けた新しいプロジェクト設計の在り方を探る、実践的な一冊となっています。
「パーパスモデル」とは何か
共創プロジェクトの設計図
「パーパスモデル」とは、プロジェクトの中心となる「パーパス(共通目的)」を軸に、多様なステークホルダーがどのような想いでどう関わるかを可視化する手法です。言わば、共創プロジェクトの設計図のようなものです。
従来のプロジェクト管理では、目標や成果物、スケジュールなどが重視されてきました。しかし、多様な立場の人々が関わる共創プロジェクトでは、それだけでは不十分です。「なぜこのプロジェクトに関わるのか」「どのような価値を見出しているのか」といった、各参加者の動機や目的を明確にすることが重要になります。
パーパスモデルは、そうした参加者一人ひとりの想いや関わり方を図示することで、プロジェクト全体の方向性を見える化します。吉備さんは、「多くの人が関わり、試行錯誤してプロジェクトを進めていくなかで、短期的な成果が見えにくかったり、いろいろ意見が飛び交って方向性が見えなくなったりすることがある」と指摘します。そんなとき、パーパスモデルは「一度みんなが立ち戻って、また進みだすためのコンパス」になるのです。
パーパスの定義と重要性
パーパスモデルの中心に置かれるのが「パーパス(共通目的)」です。これは単なる目標や理念ではなく、プロジェクトに関わる全ての人が共感できる「なぜそのプロジェクトを行うのか」という根本的な理由です。
近年、企業経営においても「パーパス経営」という言葉が注目されていますが、パーパスモデルにおけるパーパスは、より具体的なプロジェクトレベルで設定されるものです。それは、「業種、セクター、専門性など、これまで重視されてきたものが異なる者同士が一緒に取り組むため」に必要な共通言語となります。
パーパスが明確になることで、異なる背景を持つ参加者が同じ方向を向いて協力することが可能になります。また、プロジェクトの進行中に迷いが生じたときも、このパーパスに立ち返ることで、進むべき道を再確認できるのです。
従来のビジネスモデルとの違い
パーパスモデルは、従来のビジネスモデルとは大きく異なります。ビジネスモデルが「どのように価値を創造し、収益を上げるか」という経済的側面に焦点を当てるのに対し、パーパスモデルは「なぜそのプロジェクトを行うのか」「誰がどのような想いで関わるのか」という社会的・人間的側面に焦点を当てています。
本書のサブタイトルにある「利益の最大化の競争から、社会的な価値の『共創』へ」という言葉が示すように、パーパスモデルは持続可能な社会の実現に向けた新しい価値創造の枠組みを提供しています。近藤さんは図解の専門家として、「ビジネスモデル図解」でグッドデザイン賞を受賞した経験を持ちますが、パーパスモデルはそうした経済的な図解の先にある、より包括的な関係性の可視化ツールと言えるでしょう。
パーパスモデルの構造と特徴
中心にある「共通目的」
パーパスモデルの最大の特徴は、図の中心に「共通目的(パーパス)」が置かれていることです。これは、プロジェクトに関わる全ての人が共有する目的であり、プロジェクトの存在理由そのものです。
吉備さんによれば、パーパスモデルの見方には3つのポイントがあり、その1つ目が「中央に配置されている『共通目的(パーパス)』と、その周りの『各ステークホルダーの目的と役割』」です。これらが同心円状に描かれることで、プロジェクト全体の目的と、各参加者の個別の目的や役割が一目で理解できるようになっています。
共通目的は抽象的な理念ではなく、具体的な言葉で表現されることが重要です。「より良い社会をつくる」といった漠然としたものではなく、「〇〇という課題を解決するために△△を実現する」といった、具体的で測定可能な目的が望ましいとされています。
上段の「共創に関与するステークホルダー」
パーパスモデルの2つ目のポイントは、各ステークホルダーが配置される位置です。モデルの上段には「共創に関与するステークホルダー」が配置されます。これは、プロジェクトの成果物を対価を支払って利用するユーザーや顧客企業など、プロジェクトに直接的な利害関係を持つ人々や組織を指します。
彼らは、プロジェクトから何らかの価値を受け取ることを期待していますが、必ずしもプロジェクトの運営に主体的に関わるわけではありません。しかし、彼らの存在や期待がプロジェクトの方向性を大きく左右することもあります。
パーパスモデルでは、こうしたステークホルダーの期待や関心も可視化することで、プロジェクトが生み出す価値の受け手を明確にします。これにより、プロジェクトの社会的意義や市場における位置づけを確認することができるのです。
下段の「主体的な共創パートナー」
一方、モデルの下段には「主体的な共創パートナー」が配置されます。これは、プロジェクトを主体的に進める組織やそのパートナー、そしてプロジェクトに自発的に貢献してくれるユーザーなどを指します。
彼らは、プロジェクトの運営や価値創造に直接的に関わり、時には無償でも貢献する人々です。彼らがなぜプロジェクトに関わるのか、どのような価値を見出しているのかを明確にすることで、プロジェクトの推進力となる要素を理解することができます。
このように、パーパスモデルは単にプロジェクトの目的を示すだけでなく、関わる人々の立場や役割、動機を構造的に示すことで、プロジェクト全体の生態系を可視化するツールとなっているのです。
パーパスモデルの作り方
共通目的の設定方法
パーパスモデルを作る最初のステップは、プロジェクトの中心となる「共通目的(パーパス)」を設定することです。これは、プロジェクトに関わる全ての人が共感できる目的であることが重要です。
共通目的を設定する際には、「なぜこのプロジェクトを行うのか」「どのような社会的価値を生み出したいのか」といった根本的な問いに立ち返ることが大切です。また、抽象的な理念ではなく、具体的で測定可能な目的を設定することで、プロジェクトの進捗を評価する基準にもなります。
本書では、共通目的を設定するためのワークショップの方法なども紹介されています。多様な参加者が集まり、それぞれの視点からプロジェクトの意義を語り合うことで、より包括的で共感を得やすい共通目的を見出すことができるとされています。
ステークホルダーの可視化
次のステップは、プロジェクトに関わるステークホルダーを可視化することです。ここでは、「誰がどのような立場でプロジェクトに関わるのか」「彼らはプロジェクトから何を得たいと考えているのか」を明確にします。
ステークホルダーは大きく分けて、「共創に関与するステークホルダー」と「主体的な共創パートナー」の2つに分類されます。前者はプロジェクトの成果物を利用する顧客や利用者、後者はプロジェクトを主体的に推進する組織やパートナーです。
各ステークホルダーについて、「彼らの目的は何か」「プロジェクトにどのように関わるのか」「どのような価値を提供し、何を得るのか」といった情報を整理することで、プロジェクト全体の関係性が見えてきます。
目的の階層化の重要性
パーパスモデルの特徴の一つは、目的を階層化して捉えることです。中心にある共通目的と、各ステークホルダーの個別の目的を区別することで、プロジェクト全体の方向性と個々の参加動機の両方を理解することができます。
例えば、あるプロジェクトの共通目的が「地域の空き家問題を解決し、コミュニティの活性化を図る」だとしても、参加する不動産会社は「新たなビジネスモデルの開発」、地域住民は「安全で活気ある街づくり」、行政は「人口減少対策」といった、それぞれ異なる目的を持っているかもしれません。
パーパスモデルでは、これらの異なる目的が共存できることを前提としています。重要なのは、それぞれの目的が共通目的と矛盾せず、むしろ相互に補完し合う関係にあることです。目的の階層化によって、多様な参加者がそれぞれの動機を保ちながらも、一つの方向に向かって協力することが可能になるのです。
共創を成功させるポイント
利益追求から社会的価値創造へ
パーパスモデルが提案する共創の考え方は、従来のビジネスにおける「利益追求」から「社会的価値創造」へのパラダイムシフトを促すものです。本書のタイトルにもある「利益の最大化の競争から、社会的な価値の『共創』へ」という言葉が、その本質を表しています。
従来のビジネスモデルでは、いかに効率的に利益を上げるかが最大の関心事でした。しかし、社会課題が複雑化し、単一の組織だけでは解決が難しい時代において、多様なステークホルダーが協力して社会的価値を創造する「共創」の重要性が高まっています。
パーパスモデルは、そうした社会的価値創造を中心に据えたプロジェクト設計の枠組みを提供します。利益はもちろん重要ですが、それは社会的価値を創造する過程で生まれる結果の一つとして位置づけられるのです。
多様な報酬の考え方
共創プロジェクトを成功させるためには、参加者それぞれが得る「報酬」についても従来とは異なる考え方が必要です。ここでいう報酬とは、金銭的な対価だけでなく、社会的認知、学びの機会、人的ネットワークの拡大、自己実現など、多様な形態を含みます。
パーパスモデルでは、各ステークホルダーがプロジェクトから何を得たいと考えているのかを明確にすることで、適切な「報酬」の設計が可能になります。例えば、あるステークホルダーにとっては新たな技術の習得が重要かもしれませんし、別のステークホルダーにとっては社会的評価の向上が重要かもしれません。
こうした多様な報酬の考え方を取り入れることで、金銭的なインセンティブだけでは動かない人々も巻き込んだ、より包括的な共創が可能になるのです。
共通課題の深掘り
共創プロジェクトを進める上で重要なのは、取り組むべき課題の本質を深く理解することです。表面的な問題解決ではなく、その背後にある根本的な課題に迫ることで、より効果的な解決策を見出すことができます。
パーパスモデルを作成する過程では、「なぜこの課題に取り組むのか」「この課題の本質は何か」といった問いを繰り返し投げかけることで、課題の深掘りが行われます。多様なステークホルダーがそれぞれの視点から課題を語ることで、単一の視点では見えなかった課題の側面が明らかになることもあります。
また、課題の深掘りは共通目的の設定にも直結します。課題の本質を理解することで、より的確で共感を得やすい共通目的を設定することができるのです。
実践事例から学ぶ共創
国内外の共創プロジェクト分析
本書では、パーパスモデルを用いて国内外の19の共創プロジェクトを分析しています。これらの事例は、規模感、テーマ、主体があえてバラバラに選ばれており、どのような立場の読者であっても共創という考え方がイメージできるよう工夫されています。
著者は「自分には直接関係がない事例であったとしても、そこには共通点があることを感じてもらえると嬉しい」と述べています。確かに、一見異なる分野の事例でも、共創の本質的な要素や成功のポイントには共通点が見られます。
これらの事例分析を通じて、読者は自分自身のプロジェクトにパーパスモデルをどのように適用できるかのヒントを得ることができるでしょう。
ハイラインの事例
本書で紹介されている事例の一つに、ニューヨークの「ハイライン」があります。ハイラインは、使われなくなった高架鉄道を公園に転用した都市再生プロジェクトで、世界的に注目を集めた成功事例です。
このプロジェクトでは、地域住民、行政、デザイナー、寄付者など、多様なステークホルダーが関わりました。彼らはそれぞれ異なる目的を持っていましたが、「歴史的な鉄道施設を保存しながら、新たな公共空間を創出する」という共通目的のもとに協力しました。
パーパスモデルで分析すると、各ステークホルダーの役割や動機が明確になり、なぜこのプロジェクトが成功したのかを構造的に理解することができます。例えば、地域住民は「住環境の向上」、行政は「観光客の増加による経済効果」、デザイナーは「革新的な公共空間デザインの実現」といった、それぞれの目的を持ちながらも、共通目的に向かって協力したことが成功の鍵だったことがわかります。
BONUS TRACKの事例
もう一つの興味深い事例として、「BONUS TRACK」が紹介されています。これは、東京・下北沢エリアにおける小田急線の地下化に伴い、地上に生まれた空地を活用した新しい商業施設です。通常の再開発では、どんなテナントを入れるかをトップダウンで決めてから人を招くことが多いのですが、BONUS TRACKでは「支援型開発」という新しいアプローチが採用されました。
BONUS TRACKの名前には、アーティストが自由に表現できる「余白(ボーナス的な部分)」という意味が込められています。開発コンセプトは「自治と余白」。一般的な商業施設は開業時が完成形ですが、BONUS TRACKでは地域の人やプレイヤーがチャレンジできる余白を残して、開業時の完成度を80%くらいに設定したのだそうです。開業当初は長屋と舗装のみで殺風景でしたが、長屋の入居者が自由にカスタマイズできる余白を残して引き渡したところ、どんどん賑やかになっていったとのこと。
パーパスモデルで分析すると、BONUS TRACKのプロジェクトは時系列で大きく変化していることがわかります。初期、転機、現在(オープン当時)、未来という4つのフェーズでパーパスモデルを描くと、関わる人々の数が増え、目的が明確になり、上部のステークホルダーが下部の主体的な共創パートナーへと移動していく様子が見えてきます。
特に注目すべきは、このプロジェクトが「下北の個性を取り戻す」という課題意識から始まり、地域住民や個性的な店舗オーナーを巻き込みながら発展していった点です。鍵となったのは、元greenzの小野さんや下北沢の有名書店B&Bの内沼さんといった個人の存在で、彼らがいたからこそ、個性的でこだわりのあるお店のラインナップが実現したのです。
パーパスモデルの活用シーン
プロジェクト立ち上げ時
パーパスモデルは、プロジェクトの立ち上げ段階で特に効果を発揮します。多様なステークホルダーが関わるプロジェクトでは、「なぜこのプロジェクトを行うのか」という根本的な問いに対する共通理解が不可欠です。
プロジェクト立ち上げ時にパーパスモデルを作成することで、参加者全員が共有できる「共通目的(パーパス)」を明確にし、各ステークホルダーがどのような立場でプロジェクトに関わるのかを可視化することができます。これにより、プロジェクトの方向性がブレにくくなり、参加者の主体的な関与を促すことができるのです。
また、立ち上げ段階でパーパスモデルを作成するプロセス自体が、参加者間の対話を促進し、相互理解を深める効果もあります。多様な立場の人々が集まり、それぞれの視点からプロジェクトの意義や目的を語り合うことで、より包括的で共感を得やすい共通目的を見出すことができるのです。
方向性が見えなくなった時
プロジェクトが進行する中で、短期的な成果が見えにくかったり、様々な意見が飛び交って方向性が見えなくなったりすることがあります。そんなとき、パーパスモデルは「一度みんなが立ち戻って、また進みだすためのコンパス」として機能します。
方向性が見えなくなったときにパーパスモデルを見直すことで、プロジェクトの原点である共通目的を再確認し、現在の活動がその目的に沿っているかを検証することができます。また、各ステークホルダーの役割や期待を改めて整理することで、プロジェクトの進め方を再考する契機にもなります。
BONUS TRACKの事例でも、プロジェクトの進行に伴ってパーパスモデルが更新されていきました。フェーズごとにパーパスモデルを書き直していくことで、最新のゴールイメージを更新し、プロジェクトの成長を可視化することができたのです。
新たなステークホルダーを巻き込む時
プロジェクトを拡大し、新たなステークホルダーを巻き込む際にも、パーパスモデルは有効なツールとなります。パーパスモデルを用いることで、プロジェクトの全体像や各参加者の役割、期待される価値などを視覚的に示すことができ、新たな参加者にプロジェクトの本質を効果的に伝えることができます。
また、新たなステークホルダーを巻き込む際には、彼らの目的や期待をパーパスモデルに組み込むことで、プロジェクト全体の中での彼らの位置づけを明確にすることができます。これにより、新たな参加者も自分の役割や貢献の意義を理解しやすくなり、主体的な参加を促すことができるのです。
パーパスモデルは固定的なものではなく、プロジェクトの進行や参加者の変化に応じて柔軟に更新していくものです。新たなステークホルダーが加わるたびにモデルを更新することで、プロジェクトの成長や変化を可視化し、全参加者で共有することができます。
共創プロジェクトの進め方
初期段階での多様な視点の重要性
共創プロジェクトを成功させるためには、初期段階から多様な視点を取り入れることが重要です。異なる背景や専門性を持つ人々が集まることで、単一の視点では見えなかった課題や可能性が浮かび上がってきます。
パーパスモデルを用いた共創プロジェクトでは、初期段階から多様なステークホルダーを巻き込み、それぞれの視点からプロジェクトの意義や目的を語り合うことが推奨されています。このプロセスを通じて、より包括的で共感を得やすい共通目的を見出すことができるのです。
本書で紹介されている成功事例を見ると、多くのプロジェクトが「誰かから言われたものでもなく、意志のある数人が想いを共有し、多くの人を巻き込んだもの」であることがわかります。下北沢BONUSTRACKは想いのある小田急社員の方と、まちの課題に共感した事業家の2人と建築家から、NYのHighLineは廃線保存の集会で出会った2人の青年の活動から始まりました。初期段階での多様な視点の交わりが、プロジェクトの方向性を決定づける重要な要素となっているのです。
柔軟なモデルの更新
パーパスモデルは一度作って終わりではなく、プロジェクトの進行に伴って柔軟に更新していくものです。プロジェクトが進むにつれて、新たなステークホルダーが加わったり、目的や役割が変化したりすることがあります。そうした変化に応じてパーパスモデルを更新することで、プロジェクトの成長や変化を可視化し、全参加者で共有することができます。
BONUS TRACKの事例では、初期、転機、現在、未来という4つのフェーズでパーパスモデルが描かれ、プロジェクトの成長過程が可視化されています。吉備さんは「パッと見ただけでも、色がカラフルになって、関わっている人が増えていることがわかると思います。だんだんプロジェクトが成長しているさまが見えてくる」と述べています。
また、パーパスモデルの更新は、必ずしも綺麗な形で行われるわけではありません。吉備さんによれば、「実際に書くときはあんな綺麗にはならなくて。何回も書いたり消したり、文字数が膨大になったり、この人を入れる・入れないという行き来がたくさんあります」とのこと。試行錯誤を重ねながら、プロジェクトの現状を最も適切に表現するモデルを作り上げていくプロセスそのものが、共創の一部なのです。
コミュニケーションツールとしての活用法
パーパスモデルは、プロジェクト内外のコミュニケーションツールとしても活用できます。視覚的に整理された情報は言葉だけの説明よりも理解しやすく、プロジェクトの全体像や各参加者の役割、期待される価値などを効果的に伝えることができます。
プロジェクト内では、パーパスモデルを用いることで、参加者全員がプロジェクトの方向性や各自の役割を共有し、協力関係を強化することができます。また、プロジェクトの進行に伴ってモデルを更新し、変化を可視化することで、参加者全員が同じ認識を持ちながらプロジェクトを進めることができます。
プロジェクト外では、パーパスモデルを用いることで、新たな参加者や支援者にプロジェクトの本質を効果的に伝えることができます。「こういうふうに共創を進めていきたいんです」と関係者を説得する材料として、パーパスモデルが活用されているケースもあります。
吉備さんは「パーパスモデルは、分かり易く価値を伝えるために活用してほしい」と述べています。正解を求めるのではなく、プロジェクトの価値や関係性を分かりやすく伝えるためのツールとして、柔軟に活用することが重要なのです。
感想・レビュー
図解による可視化の効果
本書を読んで最も印象に残ったのは、「パーパスモデル」という図解によって、これまで言葉では表現しにくかった共創プロジェクトの関係性や価値が、驚くほど明確に可視化されることです。
共創プロジェクトは、多様なステークホルダーが複雑に関わり合い、それぞれの目的や役割が交錯する場です。そうした複雑な関係性を言葉だけで説明しようとすると、どうしても冗長になったり、本質が伝わりにくくなったりしがちです。しかし、パーパスモデルという図解を用いることで、プロジェクトの全体像や各参加者の関係性を一目で理解できるようになります。
特に、中心に「共通目的(パーパス)」を置き、その周りに各ステークホルダーの目的と役割を配置するという構造は、プロジェクトの本質を捉える上で非常に効果的です。この構造によって、「なぜこのプロジェクトを行うのか」という根本的な問いと、「誰がどのような立場で関わるのか」という具体的な関係性が、一つの図の中で統合的に表現されているのです。
図解の専門家である近藤哲朗さんの協力を得て開発されたパーパスモデルは、単なる図解以上の価値を持っています。それは、プロジェクトの本質を捉え、関係者間の対話を促進し、共通理解を深めるための強力なツールなのです。
実践的なツールとしての価値
本書のもう一つの魅力は、パーパスモデルが単なる理論ではなく、実践的なツールとして提示されていることです。国内外の19の共創プロジェクトを分析し、それぞれのパーパスモデルを示すことで、読者は自分自身のプロジェクトにどのように適用できるかのヒントを得ることができます。
特に、BONUS TRACKの事例では、初期、転機、現在、未来という4つのフェーズでパーパスモデルが描かれ、プロジェクトの成長過程が可視化されています。これにより、共創プロジェクトが一朝一夕に完成するものではなく、時間をかけて関係を育み、成長させていくものであることが理解できます。
また、本書ではパーパスモデルの作り方や活用法についても具体的に解説されており、読者は自分自身のプロジェクトにすぐに適用することができます。ワークショップの方法や、モデル作成時の注意点なども紹介されており、実践的なガイドとしての価値も高いと感じました。
パーパスモデルは、プロジェクトの立ち上げ時、方向性が見えなくなった時、新たなステークホルダーを巻き込む時など、様々な場面で活用できるツールです。本書を読むことで、共創プロジェクトを進める上での具体的な方法論を得ることができるでしょう。
社会変革への可能性
本書を通じて感じたのは、パーパスモデルが単なるプロジェクト管理のツールを超えて、社会変革の可能性を秘めているということです。
著者の吉備友理恵さんは、「変化する時代に、パーパスという共通言語をもって、人がつながっていくことに、私は希望があると思っている」と述べています。この言葉には、パーパスモデルを通じて、多様な人々が共通の目的のもとに協力し、新たな価値を創造していくことへの期待が込められています。
実際、本書で紹介されている共創プロジェクトの多くは、社会課題の解決や新たな価値の創造を目指すものです。BONUS TRACKは下北沢の個性を取り戻し、地域の活性化を図るプロジェクトであり、NYのHighLineは廃線を公園に転用することで都市空間に新たな価値をもたらしました。
こうしたプロジェクトが成功するためには、多様なステークホルダーの協力が不可欠です。パーパスモデルは、そうした協力関係を構築し、維持するための強力なツールとなり得るのです。
「利益の最大化の競争から、社会的な価値の『共創』へ」というサブタイトルが示すように、パーパスモデルは新たな価値創造の枠組みを提供しています。この枠組みを通じて、より持続可能で包括的な社会の実現に向けた変革が進んでいくことを期待させる一冊です。
まとめ
パーパスモデルがもたらす新たな協働の形
「パーパスモデル」は、多様なステークホルダーが共通の目的のもとに協力し、新たな価値を創造するための実践的なツールです。中心に「共通目的(パーパス)」を置き、その周りに各ステークホルダーの目的と役割を配置するという構造によって、プロジェクトの全体像や関係性を視覚的に理解することができます。
これからの時代に必要な共創の思考法
複雑化する社会課題に対応するためには、多様な立場の人々が協力し、それぞれの強みを活かした解決策を見出す「共創」の思考法が不可欠です。パーパスモデルは、そうした共創を促進するための具体的な方法論を提供しています。
読者それぞれの実践への期待
本書を通じて得た知見を、読者それぞれが自分自身のプロジェクトや活動に活かしていくことで、より多くの共創が生まれ、社会に新たな価値がもたらされることを期待しています。パーパスモデルという共通言語を持って、人々がつながり、協力し合う世界の実現に向けて、一歩を踏み出してみませんか。



