「成瀬は天下を取りにいく」あらすじ要約・ネタバレ・感想・レビュー(著:宮島未奈)

「成瀬は天下を取りにいく」あらすじ要約・ネタバレ・感想・レビュー(著:宮島未奈)
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2024年本屋大賞を受賞した宮島未奈さんのデビュー作「成瀬は天下を取りにいく」は、滋賀県大津市を舞台に、我が道を行く中学生・成瀬あかりの爽快な物語です。

閉店する西武大津店に通い詰めたり、漫才コンビを結成したりと、常識にとらわれない行動で周囲を巻き込んでいく成瀬の姿に、多くの読者が魅了されています。

累計95万部を突破した本作は、地方都市の温かい人間関係と、自分らしく生きることの素晴らしさを教えてくれる一冊です。

目次

本屋大賞受賞作!滋賀県大津市を舞台にした青春小説

2024年本屋大賞を受賞した宮島未奈さんのデビュー作

2024年3月、宮島未奈さんのデビュー作「成瀬は天下を取りにいく」が本屋大賞を受賞しました。この快挙は、デビュー作での受賞という点で非常に珍しく、文学界に大きな衝撃を与えました。宮島さんは1983年静岡県富士市生まれ、現在は滋賀県大津市在住の作家です。京都大学文学部を卒業後、公務員として働いていましたが、結婚を機に退職し、ライターとして活動を始めました。

小説家としての道は平坦ではありませんでした。宮島さんは小学3年生の頃から物語を書き始め、24歳の頃に三浦しをんさんの「風が強く吹いている」に衝撃を受け、一時執筆活動を休止。その後、森見登美彦さんの「夜行」に触発され、30代半ばから創作活動を再開しました。2018年には「二位の君」でコバルト短編小説新人賞を受賞(宮島ムー名義)、2021年には「ありがとう西武大津店」で第20回女による女のためのR-18文学賞の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞しています。

「成瀬は天下を取りにいく」は2023年3月に新潮社から刊行され、瞬く間に話題となりました。本屋大賞のほか、第39回坪田譲治文学賞も受賞するなど、文学賞15冠という驚異的な成績を収めています。

累計95万部突破の大ヒット作品

「成瀬は天下を取りにいく」は2025年3月現在、紙と電子を合わせて累計95万部を突破する大ヒットとなっています。2024年7月の時点ですでに60万部を突破しており、その後も売れ行きは衰えを知りません。日販、トーハンの月間ベストセラーランキングでは、2024年4月、5月と連続で1位を独占し、その後も上位にランクインし続けています。

この作品の人気は書籍だけにとどまらず、コミックバンチKaiでコミカライズも連載されています。また、地元・滋賀県を中心に、スタンプラリーやラッピング電車など、様々なコラボレーションイベントも実施され、地域活性化にも一役買っています。

「成瀬は天下を取りにいく」がここまで多くの読者の心を掴んだ理由は何でしょうか。それは、主人公・成瀬あかりの魅力的なキャラクター性と、地方都市を舞台にした温かい人間関係、そして誰もが共感できる「自分らしく生きる」というテーマにあるのではないでしょうか。

主人公・成瀬あかりとは?

我が道を行く中高生ヒロイン

成瀬あかりは、本作の主人公であり、まさに「我が道を行く」タイプの女の子です。物語は彼女が中学2年生の夏休みから始まり、高校生活へと続いていきます。成瀬の特徴は、自分の興味や信念に従って行動し、周囲の目や評価を気にしないところにあります。

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

物語の冒頭、成瀬は幼なじみの島崎みゆきにこう宣言します。2020年、コロナ禍で閉店を控える西武大津店に毎日通い、地元のローカル番組の中継に映り込むという奇妙な行動を始めるのです。

成瀬の魅力は、その行動力と純粋さにあります。彼女は自分が正しいと思ったことを迷いなく実行に移し、周囲の同調圧力や嫌がらせにも屈しません。それでいて、根は誠実で優しさも持ち合わせています。自信のある聡明な話し方や言葉選び、物怖じせず大人にも話しかけられる度胸、さらには大津市民憲章の内容を暗記しているという「正しさ」も兼ね備えています。

本の帯には「最強の主人公」という言葉が踊りますが、まさにその通りの存在です。成瀬は基本的に悩まず、ゴーイングマイウェイの極地のような人物ですが、それでいて他者への思いやりも持っています。非の打ち所のない、「最強」の称号を与えたくなる人物が、天下を取りに行く女・成瀬なのです。

「200歳まで生きる」という夢を持つ個性派

成瀬の個性を象徴するのが、「200歳まで生きる」という壮大な夢です。この目標に向かって、彼女は日々筋トレに励み、歯を丁寧に磨くなど、地道な努力を積み重ねています。一見荒唐無稽に思えるこの夢も、成瀬の口から語られると不思議と説得力を持ちます。

彼女の魅力は、夢を見ているけれど夢見がちではないところにあります。彼女は現実的なアプローチで夢に向かっていくのです。200歳まで生きるために筋トレをするという具体的な行動は、読者に「本当にその夢が叶うかもしれない」と思わせる力があります。

成瀬の存在は、周囲の人々に良い影響を与えます。本作は成瀬を外部の視点から見るという形で綴られることが多く、語り部となるキャラクターたちは最初、クラスで浮いた存在である成瀬を疎ましく思ったり、遠ざけようとしたりします。10代の少年少女にとって学校は社会そのものであり、空気を読むことや周囲の目を気にすることは必須の処世術です。

しかし、そういった悩みが一切介在しない成瀬の存在は気持ちよく、彼女と触れ合うことは周囲の人物にとってブレイクスルーとなります。成瀬の「自分らしさ」は、読者にも勇気を与えてくれるのです。

物語の舞台と背景

滋賀県大津市の地域色豊かな描写

「成瀬は天下を取りにいく」の舞台は、著者・宮島未奈さんが実際に住んでいる滋賀県大津市です。作品には大津市の地理や文化、風土が生き生きと描かれており、読者はまるで大津市を訪れたかのような臨場感を味わうことができます。

大津市は琵琶湖の南西岸に位置し、京都市に隣接する滋賀県の県庁所在地です。古くから交通の要衝として栄え、豊かな歴史と文化を持つ街です。作中では、膳所(ぜぜ)や石山、瀬田など、大津市内の様々な地名が登場し、それぞれの地域の特色が丁寧に描かれています。

特に印象的なのは、成瀬と島崎が通う中学校から見える琵琶湖の風景です。季節によって表情を変える琵琶湖の美しさは、物語の情景に深みを与えています。また、大津市の市民憲章を暗記している成瀬の姿からは、地元への愛着が感じられます。

宮島さんは自身のブログで大津に関する身の回りの情報を発信していたこともあり、その経験が作品の地域色豊かな描写に活かされているのでしょう。地方都市の日常を丁寧に描いた本作は、大都市を舞台にした物語とは一味違う魅力を持っています。

閉店する西武大津店と地元愛

物語の重要な舞台となるのが、閉店を控えた「西武大津店」です。2020年、コロナ禍の中で閉店することになったこの百貨店は、大津市民にとって思い出の場所でした。作中では、閉店間際の西武大津店の様子が詳細に描かれ、地元の人々の寂しさや惜別の気持ちが伝わってきます。

成瀬は夏休みを利用して毎日西武大津店に通い、地元のローカル番組の中継に映り込みます。一見奇妙な行動ですが、これは成瀬なりの「西武大津店への感謝」の表現なのです。彼女の行動は、地元への深い愛情から生まれています。

西武大津店の閉店は、地方都市が直面する現実的な問題を象徴しています。しかし、本作はその現実を悲観的に描くのではなく、そこに生きる人々の温かさや絆を前向きに描いています。成瀬の行動は、変化する地元への応援メッセージとも読み取れるでしょう。

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