「デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか」要約・ネタバレ・感想・レビュー(著:針貝有佳)

「デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか」要約・ネタバレ・感想・レビュー(著:針貝有佳)
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デンマークは世界幸福度ランキング上位常連国であり、その働き方は多くの日本人の憧れとなっています。

針貝有佳さんの著書「デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか」は、効率的な働き方と豊かな生活を両立させるデンマーク社会の秘密に迫った一冊です。

本書では、午後4時には帰宅するデンマーク人が、なぜ日本より高い生産性を維持できるのか、その背景にある価値観や社会システムを詳しく解説しています。

プライベートを大切にしながらも仕事で成果を出す北欧流ワークスタイルから、私たちが学べることは何でしょうか。

目次

デンマークの働き方と社会の特徴

デンマークという国の基本情報

デンマークは北欧に位置する人口約580万人の小さな国です。国土面積は九州ほどの大きさながら、高い生活水準と充実した福祉制度で知られています。世界最高水準の社会福祉を支えるため、所得税はおよそ40~50%、消費税は25%と高税率ですが、国民はこれを「高福祉のための必要な負担」と捉えています。

デンマークでは、この高い税金によって医療費や教育費が無料となり、充実した社会保障制度が整備されています。67歳以上になれば税金から年金が全員に支払われる「国民総年金制」も整っており、24時間介護体制など充実した福祉施策が実現しています。

また、デンマークはデジタル化が非常に進んでいる国でもあります。行政手続きのほとんどがオンラインで完結し、国民IDカードと連携したシステムにより、煩雑な書類作成や窓口での長時間待ちといった無駄な時間が削減されています。このデジタル化の推進は、国全体の効率性向上に大きく貢献しているのです。

デンマーク人の仕事に対する考え方

デンマーク人にとって、仕事は人生の一部ではあっても全てではありません。彼らは「プライベート優先」の価値観を持ち、家族との時間や自分自身の時間を何よりも大切にします。デンマークでは「8:8:8」という考え方が理想的なワークライフバランスとされており、これは「仕事・自分の時間・睡眠時間」にそれぞれ8時間ずつ使うことを意味します。この考え方は100年以上前から労働組合が推進してきた方針であり、社会に深く根付いています。

デンマーク人は仕事選びにおいても、有名企業だからという理由や給料が高いからという理由だけで選ぶことはほとんどありません。自分が何をしたいのかをしっかりと考え、社会に貢献できることを重視して職業を選ぶ傾向があります。「昇進のため」「お金のため」「名声のため」といった外発的動機よりも、自己成長や社会貢献といった内発的動機を重視するのです。

また、デンマークでは結果重視の文化が浸透しています。働いた時間ではなく、どれだけ成果を出したかが評価されます。そのため、効率的に仕事を進め、限られた時間内で最大の成果を出すことに注力します。この考え方が、短い労働時間でも高い生産性を維持できる秘訣となっているのです。

効率的な働き方を支える仕組み

柔軟な勤務体制

デンマークの法定労働時間は週37時間で、残業はほとんどありません。時間外労働手当が賃金の150~200%と定められているため、企業も残業や休日出勤を推奨せず、仕事は決められた勤務時間内に終わらせるのが当然と考えられています。

ほとんどの企業がフレックスタイム制を導入しており、出社や退社時間は個人の裁量に任されています。タイムカードなどによる厳格な管理もなく、自分のライフスタイルに合わせた自由な働き方が可能です。朝は出勤前にスポーツジムに寄る人もいれば、早めに退社してビジネススクールでスキルアップを図る人もいます。

デンマークの帰宅ラッシュのピークは、なんと15時半~17時。保育園も17時に閉園するので、16時前後にお迎えに行くのが一般的です。18時頃には家族全員が帰宅して、一緒に夕食をとるというのがデンマークの標準的な生活リズムなのです。

退社時間を先に決めるという習慣も特徴的です。例えば「今日は16時に子どもの習い事の送迎があるから15時半に退社する」と事前に宣言し、その時間内で仕事を終わらせるよう計画を立てます。このように明確な終了時間を設定することで、集中力を高め、効率的に業務を進めることができるのです。

また、デンマークの職場はカジュアルな雰囲気が特徴で、上司も部下も対等な関係性を築いています。敬語がなく、全員がファーストネームで呼び合うフラットな組織文化が、自由な意見交換や創造的な発想を促進しています。

家庭と仕事の両立

デンマークでは、家庭と仕事の両立を支える社会制度が充実しています。子育てへの関わり方も男女平等で、子どもが生まれてから2週間は男性も必ず育児休暇を取り、産後の妻をサポートしながら赤ちゃんのお世話をします。その後は1年間認められている育児休暇を、夫婦で分けて取るのが一般的です。

例えば、最初の半年は妻が休み、妻の復職後は夫が半年間の育休を取るとか、妻が10か月休んで、残りの2か月は夫が休むなど、家庭の事情に合わせた育休取得が可能です。家計のことを考え、収入の高いほうが短い育休で復帰する場合が多いのですが、稼ぎの多い男性でも最低2~3か月は子育てをしたいとの思いがあるようです。

夫婦で協力する家事・育児の文化も根付いています。デンマークの男性は、家事も育児も積極的にこなします。料理や掃除などはできる人がするのが当然という認識で、料理が苦手なら後片付けを引き受けるというように、夫婦で自然に分担しています。曜日ごとに料理担当を決めているという家庭もよく見られます。

離婚後の共同親権と時間管理も特徴的です。デンマークでは離婚後も共同親権が一般的で、子どもは一週間ごとに父親と母親の家を行き来するケースが多いです。この制度により、離婚後も両親が子育てに関わり続けることができ、それぞれが仕事と育児を両立させやすい環境が整っています。

年間休暇の活用方法も日本とは大きく異なります。デンマークの有給休暇は年に5~6週間と非常に長く、多くの人は夏に連続休暇を取ります。特に子どもがいる家庭では、夏休み(6月下旬~8月中旬)に長期休暇を取って家族旅行をしたり、夫婦で時期をずらして休暇を取得し、子どもの面倒を見るのが一般的です。7月はオフィスが閑散としていたり、1~2週間休業する会社もあるほどです。

人間関係と仕事の進め方

職場での人間関係

デンマークの職場では、仕事の付き合いをしない文化があります。日本のような飲み会や接待といった仕事後の付き合いはほとんどなく、プライベートと仕事は明確に区別されています。これは時間の効率的な使い方という観点からも理にかなっており、無駄な社交的義務から解放されることで、本当に大切な人との時間を確保できるのです。

上下関係のないコミュニケーションも特徴的です。デンマークでは「部下」という言葉を使っている人を見ることはほとんどなく、校長など目上の人も含めて全員がファーストネームで呼び合います。英語と同様に敬語もなく、お互いの距離が非常に近いため、「遠慮して意見を言えない」という状況はほとんど起こりません。

このフラットな関係性は、職場での自由な意見交換を促進します。相手が誰であろうと、デンマーク人は自分の意見をはっきりと言葉で伝えます。上司が不快に感じる言動をしたとしても、「私だったらこうするけど、なんでそんなことをしたの?」と率直に尋ねることができるのです。

個人の自主性を尊重する姿勢も、デンマークの職場文化の重要な要素です。デンマークでは「人と違っていても良い」という考え方があり、他の人と同じレベルで一律に何でもこなすことよりも、その人ならではの強みが活かされていることのほうが重要視されます。できないことは、できる人がやれば良いという助け合いの文化があるため、上司や同僚から「そんなこともできないのか」というプレッシャーをかけられることもなく、一人一人の個性やあり方が大切にされています。

仕事の任せ方と責任

デンマークの職場では、細かくチェックしない信頼関係が築かれています。上司は部下に仕事を任せたら、細かい指示や監視はせず、結果を信頼して待ちます。この信頼関係があるからこそ、社員は自分の裁量で仕事を進めることができ、創造性や効率性が高まるのです。

自己解決を促す環境も整っています。問題が発生した場合、上司に頼る前に自分で解決策を考えることが求められます。これは「自分で考える力」を養う文化であり、社員の成長にもつながっています。ただし、本当に困ったときには周囲がサポートする体制も整っており、バランスの取れた自律性が確保されています。

効率を重視した業務分担も特徴的です。デンマークの職場では、個人の強みや専門性に基づいて業務が割り当てられます。「全員が同じことをできるべき」という考え方ではなく、「それぞれの得意分野で最大限の成果を出す」という考え方が主流です。これにより、チーム全体の効率と成果が最大化されるのです。

しかし、この効率重視の文化には課題もあります。デンマークでは新卒研修や先輩・後輩制度(OJT制度)はほぼ存在せず、仕事を手取り足取り教えてもらえる機会はあまりありません。「他人の教育・指導」は時間がかかるため、残業ゼロを維持するためには、そうした時間を削減せざるを得ないのです。

また、失敗を避けるため、経験が浅い若手には重要な仕事が任されにくいという側面もあります。「経験に良いだろうから、彼にやらせてみようか」や「彼女はそろそろ昇進だから、1つ上の仕事を任せてみようか」というような、部下の育成を考えた仕事の割り振りも比較的珍しいとされています。

日本との比較と学ぶべき点

日本の働き方との違い

日本とデンマークの労働時間を比較すると、その差は歴然としています。OECDの調査によると、デンマークの年間平均労働時間は約1,400時間程度であるのに対し、日本は約1,700時間と、年間で300時間もの差があります。これは一日あたり約1.2時間、週に6時間の差に相当します。

しかし、労働時間が短いにもかかわらず、デンマークの労働生産性は日本を大きく上回っています。OECDの調査結果によると、デンマークの一人当たりGDPは約55,000ドルで世界第9位、時間当たり労働生産性は約77ドルで第5位となっています。これに対し、日本は一人当たりGDPが約43,000ドル(19位)で、時間当たり労働生産性は約47ドル(20位)と、デンマークより大幅に低い結果となっています。

残業と生産性の関係も興味深いポイントです。日本では「仕事量が多くて定時までには終わらない」という理由で残業が常態化していますが、デンマークでは、勤務時間内に仕事が終わらないのは、仕事のやり方が悪いか、能力不足だと考えられています。部下が時間内に仕事を終わらせられるよう指導するのも上司の仕事であり、より効率的なやり方を探ったり、個々のスキルアップを図ったりすることが求められるのです。

人間関係への気遣いの違いも大きいです。日本の職場では「空気を読む」ことや「和を乱さない」ことが重視され、本音と建前の使い分けが必要とされることが多いですが、デンマークでは率直なコミュニケーションが基本です。意見の相違があっても、それを隠さずオープンに議論することが、より良い結果につながると考えられています。

評価基準の差異も注目すべき点です。日本では長時間労働や頑張っている姿勢が評価されがちですが、デンマークでは純粋に成果や効率性が評価されます。「何時間働いたか」ではなく「何を達成したか」が重要視されるのです。

感想・レビュー

本書を読んで最も印象に残ったのは、デンマーク人の「時間の使い方」に対する考え方です。彼らは限られた時間を最大限に活用するために、常に優先順位を考え、効率的に行動しています。仕事の時間は仕事に集中し、プライベートの時間は家族や自分自身のために使う。この明確な区別が、充実した人生につながっているのだと感じました。

また、デンマークの社会システムが「人間らしく生きる」ことを支援している点も素晴らしいと思います。高い税金を払う代わりに、医療や教育が無料で提供され、充実した育児支援や年金制度が整備されています。これにより、人々は将来への不安を減らし、今を精一杯生きることができるのです。

日本の働き方改革が叫ばれる中、単に労働時間を減らすだけでなく、働き方の質を変えることの重要性を本書は教えてくれます。効率的な仕事の進め方、明確な優先順位付け、信頼関係に基づくチームワーク。これらはデンマークから学ぶべき重要なポイントでしょう。

一方で、本書で紹介されているデンマーク式の働き方をそのまま日本に適用することは難しいとも感じました。文化的背景や社会システムの違いを考慮せず、表面的な制度だけを取り入れても、うまく機能しないでしょう。日本の良さを活かしながら、デンマークの知恵を取り入れる柔軟な姿勢が必要だと思います。

針貝さんの観察眼は鋭く、デンマーク社会の表面的な部分だけでなく、その根底にある価値観や考え方まで深く掘り下げています。著者自身がデンマークに長く住み、現地の人々と交流してきた経験が、本書の説得力を高めています。単なる外国の働き方紹介本ではなく、私たち日本人が見直すべき「時間の使い方」や「人間関係の構築法」について、具体的なヒントを与えてくれる一冊です。

本書を読んで感じたのは、デンマーク人の「割り切り」の良さです。仕事とプライベートを明確に区別し、どちらも充実させるために必要なことを考え抜いている姿勢は、日本人が見習うべき点が多いと思います。特に、「時間内に仕事を終わらせるための工夫」や「無駄な会議や形式的な付き合いを省く勇気」は、すぐにでも取り入れられそうな要素です。

まとめ

デンマーク人が4時に帰っても高い成果を出せる理由は、効率的な時間の使い方、明確な優先順位付け、そして信頼関係に基づく職場環境にあります。彼らは「プライベートが充実してこそ、良い仕事ができる」という価値観を持ち、限られた時間内で最大の成果を出すことに注力しています。

本書は単に「デンマークはすごい」と称賛するだけでなく、日本社会に適用できる具体的なヒントを多く提供しています。高い税金と充実した福祉制度という社会的背景の違いはありますが、時間の使い方や人間関係の構築法など、個人レベルで取り入れられる知恵は数多くあります。

針貝さんの著書を通じて、私たちは「働くこと」の本質を見つめ直すきっかけを得ることができるでしょう。仕事と生活の両方を充実させ、真の意味での「豊かな人生」を実現するためのヒントが詰まった一冊です。

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