「贈与論」要約・ネタバレ・感想・レビュー(著:マルセル・モース)

「贈与論」要約・ネタバレ・感想・レビュー(著:マルセル・モース)
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マルセル・モースの『贈与論』は、贈与交換という社会現象を分析し、それが社会の秩序や連帯にどのように貢献しているのかを明らかにした重要な著作です。

モースは贈与交換には「与える義務」「受け取る義務」「返す義務」の3つの義務が伴い、これらが相互に関連し合うことで社会的な関係性を維持・強化すると論じています。

この本は、人類学や社会学の分野で古典とされる作品であり、現代社会においても私たちの人間関係や社会構造を考える上で多くの示唆を与えてくれます。

目次

『贈与論』の基本概念

『贈与論』は1925年に発表された論文で、フランスの社会学者・人類学者マルセル・モースによって書かれました。モースはエミール・デュルケームの甥であり、フランス社会学の発展に大きく貢献した人物です。この著作では、未開社会や古代社会における贈与交換の習慣を詳細に分析し、そこから現代社会への示唆を導き出しています。

贈与交換の3つの義務

モースが『贈与論』で最も重要視したのは、贈与交換に伴う3つの義務です。それは「与える義務」「受け取る義務」「返す義務」です。これらの義務は、一見自由意志によるものに見えながら、実は社会的な拘束力を持っています。

与える義務とは、社会的な地位や関係性を維持するために、贈り物をする必要があるということです。贈り物をすることで、相手との関係性を構築・維持し、社会的な承認を得ることができます。

受け取る義務とは、贈り物を拒否することができないという義務です。贈り物を拒否することは、贈り主との関係を断つことを意味し、社会的な断絶を招く可能性があります。

返す義務とは、贈り物を受け取った後、それに見合うものを返さなければならないという義務です。この返礼によって、贈与の循環が生まれ、社会的な関係性が維持されます。

これらの義務は、社会的な関係性を構築・維持するための重要な要素であり、モースはこれを「全体的給付の体系」と呼びました。

贈与の全体的社会事象としての性格

モースは贈与を「全体的社会事象」として捉えています。これは、贈与が単なる経済的な交換ではなく、社会のあらゆる側面(政治的、法的、宗教的、審美的など)を含む総合的な現象であるということを意味しています。

贈与は、物質的な価値だけでなく、社会的な地位や名誉、精神的な価値も含む複合的な交換なのです。例えば、北米先住民のポトラッチという儀式では、贈り物を通じて社会的な地位や権力が表現され、確認されます。

また、贈与には贈り主の「自己」が込められているという考え方もあります。贈り物には贈り主の一部が宿り、それが受け手に影響を与えるという考え方です。これは、贈与が単なる物の移動ではなく、人と人との深い結びつきを生み出す行為であることを示しています。

「ハウ」と物に宿る精霊の概念

モースは、マオリ族の「ハウ」という概念に注目しています。「ハウ」とは、物に宿る精霊のことで、贈り物にはこの「ハウ」が宿っていると考えられています。

「ハウ」は、特定の人や集団に留まり続けることを望まず、贈与の循環を促します。もし物を所有し続けようとする人がいれば、その人に災いをもたらすとされています。物は贈与されることを欲するのです。

そのため、物を受け取ると、誰かに返さなければなりません。贈与の連鎖を止めてしまうと、「ハウ」が暴れ、不幸が舞い込むとされています。「ハウ」は「与える義務」「返す義務」が生成し続けることを促し、この連鎖によって富が循環し、人と人との関係性が強化されるのです。

贈与の社会的意義

贈与は単なる物のやり取りではなく、社会的な関係性を構築・維持するための重要な手段です。モースは、贈与交換が社会的な紐帯を形成し、社会秩序を構築する上で重要な役割を果たしていると論じています。

社会的紐帯の形成と維持

贈与交換は、人と人との関係性を構築・維持するための重要な手段です。贈り物をすることで、相手との関係性を確認し、強化することができます。また、贈り物を受け取ることで、相手との関係性を受け入れ、認めることになります。

例えば、誕生日プレゼントや結婚祝いなどの贈り物は、単なる物質的な価値だけでなく、相手との関係性を確認し、祝福するという社会的な意味を持っています。これらの贈り物を通じて、人と人との関係性が確認され、強化されるのです。

また、贈与交換は、異なる集団間の関係性を構築・維持する上でも重要な役割を果たしています。例えば、異なる部族間での贈り物のやり取りは、平和的な関係を構築・維持するための手段として機能しています。

贈与と返礼の循環による社会秩序の構築

贈与と返礼の循環は、社会秩序を構築する上で重要な役割を果たしています。贈り物をすることで相手に「負い目」を作り、その「負い目」が返礼という形で解消されることで、社会的な均衡が保たれます。

この贈与と返礼の循環は、単なる物質的な交換ではなく、社会的な関係性の確認と強化の過程でもあります。贈り物をすることで相手との関係性を確認し、返礼を受けることでその関係性が相互的であることを確認するのです。

また、贈与と返礼の循環は、社会的な規範や価値観を共有し、確認する場でもあります。贈り物の種類や量、タイミングなどには、その社会の規範や価値観が反映されており、贈与交換を通じてそれらが共有され、確認されるのです。

贈与交換と社会的地位の関係

贈与交換は、社会的な地位や権力と密接に関連しています。贈り物の種類や量、タイミングなどには、贈り主の社会的な地位や権力が反映されており、贈与交換を通じてそれらが表現され、確認されます。

例えば、北米先住民のポトラッチという儀式では、首長が大量の財産を部族の成員や他の部族に贈与し、時には破壊することで、自らの社会的な地位や権力を誇示します。このような贈与の競争は、社会的な地位や権力の確認と再生産の場として機能しているのです。

また、贈与交換は、社会的な地位や権力の変動の場でもあります。贈り物を返せない場合、社会的な地位や権力が低下する可能性があります。逆に、大量の贈り物をすることで、社会的な地位や権力を高めることもできるのです。

様々な社会における贈与の形態

モースは、様々な社会における贈与の形態を詳細に分析しています。ポリネシア社会の贈与習慣、メラネシアのクラ交換、北米先住民のポトラッチなど、様々な社会における贈与の形態を通じて、贈与交換の普遍性と多様性を明らかにしています。

ポリネシア社会の贈与習慣

ポリネシア社会では、贈与は社会的な関係性を構築・維持するための重要な手段として機能しています。特に、マオリ族の「ハウ」の概念は、贈与交換の本質を理解する上で重要です。

マオリ族では、贈り物には「ハウ」という精霊が宿っていると考えられています。この「ハウ」は、贈り主の一部であり、贈り物を通じて受け手に影響を与えます。また、「ハウ」は贈り主に戻ることを望んでおり、そのため受け手は贈り物に対して返礼をする必要があるのです。

この「ハウ」の概念は、贈与交換が単なる物の移動ではなく、人と人との深い結びつきを生み出す行為であることを示しています。贈り物には贈り主の一部が宿り、それが受け手に影響を与え、返礼を促すのです。

メラネシアのクラ交換

メラネシアのトロブリアンド諸島では、「クラ」と呼ばれる贈与交換の体系が存在します。クラ交換は、島々を巡る交易の旅を通じて行われ、特定の価値あるものが交換されます。

クラ交換では、「ソウラヴァ」と呼ばれる赤い貝殻の首飾りと、「ムワリ」と呼ばれる白い貝殻の腕輪が交換されます。これらは、時計回りと反時計回りの方向に島々を巡り、各島の首長間で交換されます。

クラ交換は、単なる経済的な交換ではなく、社会的な関係性を構築・維持するための重要な手段として機能しています。クラ交換を通じて、異なる島々の首長間の関係性が確認され、強化されるのです。

北米先住民のポトラッチ

北米先住民、特に北西海岸の部族では、「ポトラッチ」と呼ばれる贈与の儀式が行われています。ポトラッチは、首長が大量の財産を部族の成員や他の部族に贈与し、時には破壊する儀式です。

ポトラッチは、首長の社会的な地位や権力を誇示するための手段として機能しています。首長は、大量の財産を贈与することで、自らの富と寛大さを示し、社会的な地位や権力を確認します。

また、ポトラッチは、社会的な地位や権力の競争の場でもあります。首長間でポトラッチの規模を競い合うことで、社会的な地位や権力の序列が決まります。このような贈与の競争は、社会的な地位や権力の確認と再生産の場として機能しているのです。

贈与と負債の関係性

贈与は、受け手に「負い目」や「負債」を作り出します。この「負い目」や「負債」は、返礼という形で解消されることで、社会的な均衡が保たれます。モースは、この「負い目」や「負債」が、社会的な関係性を構築・維持する上で重要な役割を果たしていると論じています。

受け取ることの両義性

贈り物を受け取ることには、両義的な側面があります。一方では、贈り物を受け取ることで、贈り主との関係性を受け入れ、認めることになります。これは、社会的な関係性を構築・維持する上で重要な役割を果たしています。

しかし他方では、贈り物を受け取ることで、贈り主に対して「負い目」や「負債」を抱えることになります。この「負い目」や「負債」は、返礼という形で解消されるまで、受け手を拘束します。

この両義性は、贈与交換が単なる物の移動ではなく、社会的な関係性の構築・維持の過程であることを示しています。贈り物を受け取ることで、相手との関係性を受け入れると同時に、その関係性に拘束されるのです。

「負い目」と社会的結合

贈り物を受け取ることで生じる「負い目」や「負債」は、社会的な結合を生み出します。「負い目」や「負債」があることで、人と人との関係性が維持され、社会的な結合が強化されるのです。

例えば、贈り物を受け取った人は、その「負い目」を解消するために返礼をする必要があります。この返礼の過程で、人と人との関係性が確認され、強化されます。また、返礼が適切に行われることで、社会的な規範や価値観が共有され、確認されるのです。

このように、「負い目」や「負債」は、社会的な結合を生み出し、維持する上で重要な役割を果たしています。「負い目」や「負債」があることで、人と人との関係性が維持され、社会的な結合が強化されるのです。

贈与物に込められた「自己」の概念

モースは、贈り物には贈り主の「自己」が込められているという考え方を示しています。贈り物は、単なる物ではなく、贈り主の一部であり、贈り主の「自己」が受け手に移行するのです。

この考え方は、マオリ族の「ハウ」の概念に見られます。「ハウ」は、贈り主の一部であり、贈り物を通じて受け手に影響を与えます。また、「ハウ」は贈り主に戻ることを望んでおり、そのため受け手は贈り物に対して返礼をする必要があるのです。

この「自己」の移行という考え方は、贈与交換が単なる物の移動ではなく、人と人との深い結びつきを生み出す行為であることを示しています。贈り物には贈り主の一部が宿り、それが受け手に影響を与え、返礼を促すのです。

現代社会への示唆

モースの『贈与論』は、現代社会への多くの示唆を含んでいます。市場経済と贈与経済の対比、現代に残る贈与交換の原理、社会保障制度と贈与の関連性など、現代社会を考える上で重要な視点を提供しています。

市場経済と贈与経済の対比

モースは、市場経済と贈与経済を対比しています。市場経済は、等価交換を原則とし、すべてを貨幣価値に還元して人間関係を把握するような市場原理に基づいています。一方、贈与経済は、贈与と返礼の循環を通じて社会的な関係性を構築・維持する経済です。

市場経済では、交換は即時的で完結的であり、交換後の関係性は考慮されません。一方、贈与経済では、交換は継続的で非完結的であり、交換を通じて関係性が構築・維持されます。

モースは、市場経済が支配的になった現代社会においても、贈与経済の原理が隠れた形で機能していると論じています。例えば、家族間や友人間での贈り物のやり取りは、市場経済の原理ではなく、贈与経済の原理に基づいています。

現代に残る贈与交換の原理

現代社会においても、贈与交換の原理は様々な形で残っています。例えば、誕生日プレゼントや結婚祝いなどの贈り物は、市場経済の原理ではなく、贈与経済の原理に基づいています。

これらの贈り物は、単なる物質的な価値だけでなく、相手との関係性を確認し、祝福するという社会的な意味を持っています。贈り物を通じて、人と人との関係性が確認され、強化されるのです。

また、ボランティア活動や寄付なども、贈与交換の原理に基づいています。これらの活動は、直接的な見返りを期待せずに行われますが、社会的な承認や自己満足などの形で間接的な見返りがあります。これらの活動を通じて、社会的な関係性が構築・維持されるのです。

モースは、市場経済が支配的になった現代社会においても、贈与経済の原理を復権させることが重要だと論じています。市場経済の原理だけでは、人と人との関係性が希薄になり、社会的な結合が弱まってしまうからです。

現代に残る贈与交換の原理

現代社会においても、贈与交換の原理は様々な形で残っています。例えば、日本の中元や歳暮、お祝いなどの贈答文化は、市場経済の原理ではなく、贈与経済の原理に基づいています。

これらの贈り物は、単なる物質的な価値だけでなく、相手との関係性を確認し、維持するという社会的な意味を持っています。贈り物を通じて、人と人との関係性が確認され、強化されるのです。

また、SNSでの「いいね」や「シェア」なども、現代的な贈与交換の形態と見ることができます。これらの行為は、直接的な見返りを期待せずに行われますが、社会的な承認や自己満足などの形で間接的な見返りがあります。

さらに、クラウドファンディングやふるさと納税なども、現代的な贈与交換の形態と見ることができます。これらの活動は、直接的な見返りを期待せずに行われますが、社会的な承認や自己満足、あるいは返礼品などの形で間接的な見返りがあります。

社会保障制度と贈与の関連性

モースは、社会保障制度も贈与交換の原理に基づいていると論じています。社会保障制度は、直接的な見返りを期待せずに、社会全体で弱者を支える仕組みです。

例えば、年金制度は、現役世代が高齢者を支える仕組みですが、これは直接的な見返りを期待せずに行われる贈与と見ることができます。もちろん、現役世代も将来は高齢者になり、次の世代から支援を受けることになりますが、これは直接的な見返りではなく、世代間での贈与の循環と見ることができます。

また、医療保険制度も、健康な人が病気の人を支える仕組みですが、これも直接的な見返りを期待せずに行われる贈与と見ることができます。もちろん、健康な人も将来は病気になる可能性があり、その時には他の健康な人から支援を受けることになりますが、これも直接的な見返りではなく、社会全体での贈与の循環と見ることができます。

モースは、これらの社会保障制度が、市場経済の原理だけでなく、贈与経済の原理にも基づいていることを指摘し、これらの制度を通じて社会的な結合が強化されると論じています。

感想・レビュー

マルセル・モースの『贈与論』は、贈与交換という社会現象を通じて、人間社会の本質に迫る深遠な著作です。この本を読むと、私たちが日常的に行っている贈り物のやり取りが、単なる物の移動ではなく、人と人との深い結びつきを生み出す行為であることに気づかされます。

人間関係の根源を照らす洞察

『贈与論』の最も魅力的な点は、人間関係の根源に迫る洞察にあります。モースは、贈与交換が単なる経済的な交換ではなく、社会のあらゆる側面(政治的、法的、宗教的、審美的など)を含む総合的な現象であることを明らかにしています。

贈り物には贈り主の「自己」が込められているという考え方は、特に印象的です。贈り物は、単なる物ではなく、贈り主の一部であり、贈り主の「自己」が受け手に移行するのです。この考え方は、贈与交換が単なる物の移動ではなく、人と人との深い結びつきを生み出す行為であることを示しています。

また、贈与交換に伴う3つの義務(与える義務、受け取る義務、返す義務)の分析も、人間関係の本質を理解する上で重要な視点を提供しています。これらの義務は、一見自由意志によるものに見えながら、実は社会的な拘束力を持っています。この分析は、人間関係が自由と拘束の微妙なバランスの上に成り立っていることを示唆しています。

現代の消費社会を見つめ直す視点

『贈与論』は、現代の消費社会を見つめ直す視点も提供しています。モースは、市場経済と贈与経済を対比し、市場経済が支配的になった現代社会においても、贈与経済の原理が隠れた形で機能していると論じています。

この視点は、現代社会における消費のあり方を考える上で重要です。現代社会では、物の価値が貨幣価値に還元され、物と人との関係が希薄になっています。しかし、モースの指摘するように、物には贈り主の「自己」が込められており、物と人との関係は本来もっと深いものであるはずです。

また、モースの視点は、現代社会における「贈与」の意味を考える上でも重要です。現代社会では、贈り物が商業化され、贈与の本来の意味が失われつつあります。しかし、モースの指摘するように、贈与は単なる物の移動ではなく、人と人との深い結びつきを生み出す行為です。この視点は、現代社会における贈与のあり方を見つめ直す上で重要な示唆を与えてくれます。

『贈与論』は、遺贈寄付などの現代的な贈与の形態を考える上でも示唆に富んでいます。フランスの社会学者、マルセル・モースは著書「贈与論」で、贈与には返礼義務が伴うと分析、主張しています。丸めて言えば、恩を受けたら、その恩を返さずにはいられないのが人だということです。遺贈寄付では当の相手がいないのですから、その恩を返す相手は別の誰かになりえます、というかそうならざるを得ません。直接的な「恩返し」ではなく、別の誰かに恩を返す「恩送り」です。

まとめ

マルセル・モースの『贈与論』は、贈与交換という社会現象を通じて、人間社会の本質に迫る深遠な著作です。モースは、贈与交換には「与える義務」「受け取る義務」「返す義務」の3つの義務が伴い、これらが相互に関連し合うことで社会的な関係性を維持・強化すると論じています。

贈与交換は、単なる経済的な交換ではなく、社会のあらゆる側面(政治的、法的、宗教的、審美的など)を含む総合的な現象であり、モースはこれを「全体的社会事象」として性格づけています。また、贈り物には贈り主の「自己」が込められているという考え方も、贈与交換が単なる物の移動ではなく、人と人との深い結びつきを生み出す行為であることを示しています。

モースの『贈与論』は、現代社会への多くの示唆を含んでいます。市場経済と贈与経済の対比、現代に残る贈与交換の原理、社会保障制度と贈与の関連性など、現代社会を考える上で重要な視点を提供しています。特に、市場経済が支配的になった現代社会においても、贈与経済の原理を復権させることの重要性を指摘している点は、現代社会のあり方を考える上で重要な示唆となっています。

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この記事を書いた人

元書店員の読書好きの30代男性「ダルマ」です。好きなジャンルはミステリー小説とビジネス書。
このサイトを見て1冊でも「読んでみたい」「面白そう」という本でに出会えてもらえたら幸いです。

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