
AIとデータの時代に日本はどう生き残るべきか。
安宅和人さんの「シン・ニホン」は、日本の現状を冷静に分析しながらも未来への希望を示す一冊です。
データサイエンスの第一人者が描く日本再生の道筋と、人材育成の在り方について詳しく解説しています。
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」で総合グランプリを受賞し、多くの読者の心を動かした名著。その内容と魅力を余すところなくお伝えします。


「シン・ニホン」とは?安宅和人さんが描く日本の未来像
- 日本はオワコン
- 失われた30年
- 少子高齢化
こんな言葉を毎日のように耳にする昨今、私たちはどこへ向かえばいいのでしょうか。
安宅和人さんの「シン・ニホン」は、
タイトルの「シン・ニホン」は映画「シン・ゴジラ」に着想を得たネーミングだそう。
安宅さんが「シン・ニホン」と名付けた講演が話題を呼び、同様の講演が相次いだことから、それらの内容を一冊の本にまとめたものが本書となりました。
著者・安宅和人さんのプロフィール
安宅和人さんは1968年生まれの富山県出身。東京大学大学院生物化学専攻で修士課程を修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、イェール大学で脳神経科学の博士号(Ph.D.)を取得し、2008年からヤフーに入社。2012年からはCSO(チーフストラテジーオフィサー)を務め、2022年からはZホールディングスのシニアストラテジストとして活躍されています。
現在は慶應義塾大学環境情報学部教授としても教鞭を執り、データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長、一般社団法人「残すに値する未来」代表などの肩書も持ちます。著書には本書以外にも、30万部を超えるベストセラーとなった『イシューからはじめよ』があります。
「シン・ニホン」出版の背景と社会的意義
本書が出版された2020年は、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が始まった時期でした。社会全体がデジタル化の遅れを痛感し、変革の必要性を強く感じていた時代背景があります。
安宅さんは本書を通じて、AIとデータがもたらす社会の変貌と日本の現状を訴え、これからの残すべき未来を提示しています。単なる危機感の煽りではなく、具体的な解決策まで示している点が、多くの読者の共感を呼んだのでしょう。
「シン・ニホン」の全体像と主なテーマ
本書は、現在の日本が置かれている状況を徹底的にデータで分析し、その上で日本が再び立ち上がるための具体的な方策を提示しています。特に注目すべきは、AIとデータの時代における人材育成の在り方です。
データ思考で見る日本の現状分析
安宅さんはまず、日本の現状を冷静に分析します。GDPの推移を見ると、日本は明らかに「一人負け」の状態。人口が8000万人しかいないドイツに抜かれようとしている事実は、衝撃的です。
しかし興味深いのは、GDPを分野別に見ると、日本はICT(情報通信技術)で負けているわけではなく、その他の産業で差を大きくつけられているというデータです。これは「多くの日本企業はこの情報社会でやるべきことをやっていない」ことを示しています。
言い換えれば、日本には伸びしろがあるということ。古くてダサいと思われがちな日本ですが、まだまだ可能性を秘めているのです。
「AIネイティブ」という新たな概念
本書では「AIネイティブ」という概念が提示されています。デジタルネイティブが生まれた時からデジタル環境に慣れ親しんでいる世代を指すように、AIネイティブはAIを当たり前のように使いこなせる人材を指します。
安宅さんは、日本が再生するためには、このAIネイティブな人材を育成することが不可欠だと説きます。そのためには教育改革が必要で、特にデータサイエンスやAIに関する教育を充実させるべきだと主張しています。
「シン・ニホン」あらすじ・内容詳細
本書は全6章から構成されており、各章で日本が直面する課題と解決策が詳細に論じられています。ここでは各章の内容を詳しく見ていきましょう。
第1章:日本が直面する厳しい現実
第1章では、現在の日本が置かれている厳しい現実が描かれています。特に強調されているのは、世界的な変化のスピードについていけていない日本の姿です。
30年前のスパコンより数十倍速いコンピュータを私たちはポケットに入れて生活しています。それに伴い多くのサービスが生まれ、私たちの生活様式も激変してきました。この変化は産業革命に匹敵するほどの大きなものですが、日本はこの波に乗り遅れています。
安宅さんはこのデータ×AIの時代を「第2の黒船」に例え、確変期をフェーズ1・フェーズ2・フェーズ3に区分けしています。フェーズ1は新技術の発見・発明、フェーズ2は高度な応用、フェーズ3はエコシステムの構築です。
残念ながら日本はフェーズ1で完敗していますが、フェーズ2とフェーズ3ではまだ勝機があると安宅さんは主張します。
第2章:人口減少社会における日本の課題
第2章では、人口減少社会における日本の課題が論じられています。少子高齢化が進む中、社会保障費は増大し続け、一般会計予算の3分の1を占めるまでになっています。
このままでは若い世代の負担が増すばかりで、未来への投資が減少してしまいます。安宅さんは、社会保障に大きくお金を割けば選挙に勝てると思っている政治家の考えを変え、税金の使い道を「未来に向けた投資」にマインドチェンジする必要があると説きます。
また、人口減少に対応するためには、移民政策も視野に入れるべきだと主張しています。
第3章:デジタル革命と日本の遅れ
第3章では、デジタル革命における日本の遅れが詳細に分析されています。日本はデータ×AIの3条件(データ、処理力、人材)で大敗しており、特に人材面での遅れが顕著です。
しかし、新しい技術をひたむきに学び高度な応用を行い世界を驚かすことは日本のお家芸。フェーズ2(高度な応用)とフェーズ3(エコシステムの構築)で勝負をかけるべきだと安宅さんは提言します。
そのためには、まず「AI-Ready化(AIを語る以前の課題をクリアする)」を進める必要があります。具体的には、デジタル化の基盤整備やデータの活用環境の整備などが挙げられています。
第4章:教育改革の必要性と具体策
第4章では、教育改革の必要性と具体策が論じられています。安宅さんは、AI時代に必要な人材を育成するためには、従来の教育システムを根本から見直す必要があると主張します。
特に強調されているのは、「異人」の育成です。「異人」とは、周りの子と感性がズレているような、一見変わった人材のこと。太平の世であればただの変人として白い目で見られるような人材が、変革期には新しい価値を生み出す可能性があるのです。
また、AI×データを解き放つためのスキルとして、ビジネス×データサイエンス×データエンジニアリングの3つの領域を横断できる人材の育成が重要だと説きます。
第5章:移民政策と多様性の重要性
第5章では、移民政策と多様性の重要性が論じられています。人口減少社会において、移民を受け入れることは避けて通れない道だと安宅さんは主張します。
特に、高度な技術を持つ人材を積極的に受け入れることで、日本の競争力を高めることができるとしています。また、多様な背景を持つ人々が交わることで、新しいアイデアや価値が生まれる可能性も指摘しています。
ただし、移民政策を成功させるためには、言語や文化の壁を取り除く努力も必要です。英語教育の強化や多文化共生の環境づくりが欠かせません。
第6章:「シン・ニホン」実現のためのロードマップ
最終章では、「シン・ニホン」実現のためのロードマップが示されています。安宅さんは、日本再生のために8つの施策を提案しています。
- 調達を見直す
- あらゆるコスト前提、必要前提を疑う
- データドリブンで発生コストを解析して打ち手を打つ
- 松竹梅化の視点をさまざまなものに導入する
- 自動化できるものは片っ端から自動化する
- 煩雑なプロセスを見直し、コアプロセスを再整理する
- 治療・ケア以前にできる限り予防する
- 都市以外、特に過疎地域のインフラコストを劇的に下げる
これらの施策によって浮いたお金を、「人づくり」のための教育に投じるべきだと安宅さんは主張します。
「シン・ニホン」の核心的メッセージ
本書の核心的メッセージは、日本が再び立ち上がるためには、データ駆動型社会への転換、人材育成と教育の抜本的改革、多様性を受け入れる文化の醸成が不可欠だということです。
データ駆動型社会への転換
安宅さんは、あらゆる意思決定がデータに基づいて行われる「データ駆動型社会」への転換が必要だと説きます。感覚や経験だけに頼るのではなく、客観的なデータを分析し、そこから得られる洞察に基づいて行動することが重要です。
特に行政や企業の意思決定においては、データ分析に基づく科学的アプローチが不可欠。そのためには、データの収集・分析・活用のインフラ整備と、それを担う人材の育成が急務です。
人材育成と教育の抜本的改革
本書で最も強調されているのは、人材育成と教育の抜本的改革の必要性です。安宅さんは、AI時代に必要な人材として「異人」の重要性を説きます。
「異人」とは、既存の枠組みにとらわれず、新しい発想で価値を生み出せる人材のこと。そうした人材を育成するためには、画一的な教育ではなく、個性を伸ばす教育が必要です。
また、AI×データ時代に必要なスキルとして、ビジネス×データサイエンス×データエンジニアリングの3つの領域を横断できる人材の育成も重要だと指摘しています。
多様性を受け入れる文化の醸成
安宅さんは、多様性を受け入れる文化の醸成も重要だと説きます。異なる背景や考え方を持つ人々が交わることで、新しいアイデアや価値が生まれるからです。
特に、高度な技術を持つ外国人材を積極的に受け入れることで、日本の競争力を高めることができるとしています。そのためには、言語や文化の壁を取り除く努力も必要です。
「シン・ニホン」が提案する日本再生の道筋
本書では、日本再生の具体的な道筋として、デジタル化による生産性向上、移民1000万人計画、英語教育とSTEM教育の強化などが提案されています。
デジタル化による生産性向上
安宅さんは、日本の生産性の低さを指摘し、デジタル化によってそれを向上させる必要があると説きます。特に、行政手続きや企業の業務プロセスのデジタル化は急務です。
例えば、行政手続きのオンライン化や、企業におけるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入などが挙げられています。これらによって、人手不足を補いつつ、生産性を向上させることができるのです。
移民1000万人計画の詳細
安宅さんは、人口減少社会における解決策として、移民1000万人計画を提案しています。これは、高度な技術を持つ外国人材を積極的に受け入れ、日本の競争力を高めるというものです。
ただし、単に数を増やせばいいというわけではありません。言語や文化の壁を取り除き、外国人材が日本社会に溶け込めるような環境づくりが重要です。また、高度な技術を持つ人材を選別し、日本の産業競争力を高めることも必要だとしています。
英語教育とSTEM教育の強化
安宅さんは、グローバル社会で活躍できる人材を育成するためには、英語教育とSTEM(科学・技術・工学・数学)教育の強化が不可欠だと説きます。
特に英語は、グローバルなコミュニケーションツールとして欠かせません。また、STEM教育は、AI時代に必要な論理的思考力や問題解決能力を養うために重要です。
安宅さんは、これらの教育を小学校から本格的に導入し、日本人の英語力とSTEMリテラシーを向上させるべきだと主張しています。
「シン・ニホン」の革新的アイデア
本書には、「創造社会」への転換、AIと人間の共存モデル、地方創生と都市集中の両立など、革新的なアイデアが満載です。
「創造社会」への転換
安宅さんは、これからの時代は「創造社会」になると予測しています。つまり、単なる労働ではなく、創造的な活動が価値を生む社会です。
10分間でパンをどれくらい多く作ることができるのかという勝負は、もう人間は機械に勝つことができません。しかし、どれだけ魅力的な新しいパンのレシピを思いつくことができるのか、という勝負なら人間にチャンスがあります。これからの時代は、こうした「妄想力」豊かな人材が必要になってくるのです。
AIと人間の共存モデル
安宅さんは、AIと人間が共存するモデルも提案しています。AIにできることはAIに任せ、人間はより創造的な活動に集中するというものです。
例えば、定型的な業務や分析はAIに任せ、人間は新しいアイデアを考えたり、感情や価値観に関わる判断をしたりすることに集中する。そうすることで、人間とAIがそれぞれの強みを活かし、共に社会を発展させることができるのです。安宅さんは「ヒトは人間らしい価値を提供することに集中する」ことが重要だと説きます。AIが台頭する時代だからこそ、人間にしかできない「見立てる」「方向を定める」「問いを立てる」「組織を率いる」「ヒトを奮い立たせる」といった能力が重要になってくるのです。
これは決して人間がAIに仕事を奪われるという悲観的な未来像ではありません。むしろ、AIによって人間が単調な作業から解放され、より創造的で人間らしい活動に集中できるという希望に満ちた未来像なのです。
地方創生と都市集中の両立
安宅さんは、地方創生と都市集中の両立も提案しています。これまでの地方創生は、都市から地方への人口移動を促すことに重点が置かれてきましたが、安宅さんはそれとは異なるアプローチを提案しています。
具体的には、「風の谷」という構想です。これは、都市と地方をセットで考え、それぞれの強みを活かした共存モデルを構築するというものです。都市は創造的な活動の中心として、地方は自然と共生する持続可能な生活の場として、それぞれの役割を担うのです。
特に注目すべきは、地方のインフラコスト削減の提案です。人口減少が進む地方では、一人当たりのインフラコストが増大しています。安宅さんは、オフグリッド型のインフラへの切り替えや、高齢者と若者の住み分けの逆転(若者が自然豊かな地方に住み、高齢者が医療施設の充実した都市に住む)などを提案しています。
これらの提案は、単なる理想論ではなく、データに基づいた現実的な解決策です。安宅さんは、地方創生と都市集中を対立させるのではなく、両者の強みを活かした新しい社会モデルを提示しているのです。
感想・レビュー
「シン・ニホン」を読み終えて、私は深い衝撃と同時に、希望も感じました。日本の現状を冷静に分析しながらも、未来への具体的な道筋を示してくれる本書は、まさに今の日本に必要な一冊だと思います。
説得力あるデータと論理展開
本書の最大の魅力は、すべての主張がデータに基づいているという点です。感覚や印象に頼るのではなく、客観的なデータを分析し、そこから論理的に結論を導き出しています。
例えば、日本のGDPが他国に抜かれている現状や、社会保障費の増大による若者への負担増など、数字で示されると否応なく現実を突きつけられる思いがします。しかし、それは単なる悲観論ではなく、問題解決のための第一歩なのです。
安宅さんの論理展開は明快で、「なぜそうなのか」「どうすればいいのか」が分かりやすく説明されています。複雑な問題も、要素を分解して一つずつ解きほぐしていく手法は、まさに「イシューからはじめよ」の著者らしいアプローチです。
現実的かつ大胆な提言の魅力
本書のもう一つの魅力は、現実的でありながらも大胆な提言がなされている点です。移民1000万人計画や教育の抜本的改革など、一見すると実現困難に思える提案も、データと論理に基づいて説明されると、「確かにそうかもしれない」と思えてきます。
特に印象的だったのは、安宅さんが単に「こうすべきだ」と主張するだけでなく、「なぜそうすべきなのか」「どうやって実現するのか」まで具体的に示している点です。これは、多くの論者が陥りがちな「理想論」や「批判だけ」とは一線を画しています。
また、安宅さん自身が実践者であるという点も、提言に説得力を与えています。ヤフーのCSOとして、また慶應義塾大学の教授として、自らの主張を実践している姿勢は、読者に「自分も何かできるのではないか」という気持ちを起こさせます。
「シン・ニホン」が私に与えた新たな視点
本書を読んで最も大きく変わったのは、日本の未来に対する見方です。これまで「人口減少」「高齢化」「財政赤字」などのキーワードを聞くと、どうしても暗い未来像を思い描いてしまいがちでした。
しかし、安宅さんの提示する「シン・ニホン」のビジョンは、そうした悲観論を覆すものです。確かに課題は山積していますが、それらを一つずつ解決していくための具体的な道筋が示されていると、希望が見えてきます。
特に印象的だったのは、「異人」の育成という考え方です。これまでの日本社会では、「空気を読む」「和を乱さない」といった同調圧力が強く、個性的な人材が評価されにくい面がありました。しかし、AI時代においては、むしろそうした「異人」こそが新しい価値を生み出す可能性があるという指摘は、目から鱗が落ちる思いでした。
私自身も、これからの時代を生きる一人として、「AIネイティブ」になるための学びを続けていきたいと思います。そして、安宅さんの言う「創造社会」の一員として、新しい価値を生み出していく努力をしていきたいと感じました。
まとめ
「シン・ニホン」は、日本の現状を冷静に分析しながらも、未来への希望を示す一冊です。安宅和人さんは、データとAIの時代における日本の再生と人材育成について、具体的な道筋を提示しています。
特に印象的なのは、すべての主張がデータに基づいているという点です。感覚や印象に頼るのではなく、客観的なデータを分析し、そこから論理的に結論を導き出しています。
また、「AIネイティブ」や「異人」の育成、「創造社会」への転換など、これからの時代に必要な新しい概念も提示されています。これらは単なる理想論ではなく、データと論理に基づいた現実的な提案です。
「シン・ニホン」は、日本の未来を考える上で避けて通れない一冊であり、多くの人に読んでいただきたい本です。私たち一人ひとりが、安宅さんの提示するビジョンを理解し、それぞれの立場で行動することで、「シン・ニホン」の実現に近づくことができるのではないでしょうか。