初めて部下を持つ立場になったとき、多くの人が戸惑いを感じるものです。
プレイヤーとして優秀だった人が、必ずしも優れたマネジャーになれるとは限りません。橋本拓也さんの『部下をもったらいちばん最初に読む本』は、マネジメントを「技術」として捉え、誰でも学べる体系として提示しています。
選択理論心理学をベースにした「リードマネジメント」の手法を通じて、好業績と良好な人間関係の両立を目指す一冊です。
本書は2025年のビジネス書グランプリで総合グランプリとマネジメント部門1位を獲得した注目の一冊でもあります。
「部下をもったらいちばん最初に読む本」の基本情報
著者プロフィール
橋本拓也さんは、アチーブメント株式会社の取締役営業本部長であり、トレーナーとしても活躍されています。千葉大学を卒業後、2006年にアチーブメント株式会社に入社。入社1年目という早い段階で新規事業の責任者に抜擢され、家庭教師派遣事業を立ち上げましたが、5年後にその事業は閉鎖されています。
2008年からメンバーマネジメントに携わるようになりましたが、異動や退職が多く、ご自身の言葉を借りれば「7年間マネジメントの無免許運転期間」を過ごしたそうです。その後、世界60か国以上で学ばれている「選択理論心理学」を土台にしたマネジメント手法に取り組み始めたことで、マネジメントのあり方が劇的に変化。メンバーと組織の飛躍的な成長を実現し、2021年には新卒初の執行役員、2022年には取締役に就任されました。
現在は130人以上のメンバーマネジメントに携わり、2023年に開講したマネジメント講座は1年でシリーズ累計1000人以上が受講。また、企業経営者や管理職、ビジネスパーソンらが年間1.8万人以上受講するセミナー『頂点への道』講座シリーズのメイン講師を務めるなど、これまでに研修を担当した受講生は2万人に上るという実績の持ち主です。
本書の位置づけと特徴
『部下をもったらいちばん最初に読む本』は、その名の通り、初めて部下を持つ立場になった人向けの指南書です。しかし、中堅のマネジャーが自身のマネジメントを振り返る意味でも十分に参考になる内容となっています。
本書の最大の特徴は、マネジメントを「センスや経験に頼るものではなく、学べば誰でも身につけられる技術である」と明確に位置づけていることでしょう。多くの人が「マネジメントは難しい」と感じる中、橋本さんはその悩みを解消するための具体的な方法を提供しています。
また、心理学をベースにした「リードマネジメント」という新しいアプローチを提案しており、部下の内発的変化を手助けする手法として注目されています。他者の行動を直接選択させることはできないという前提に立ち、「部下を変えることはできないが、部下自身は変わることができる」と強調している点も特徴的です。
出版背景
本書は2024年9月6日にアチーブメント出版から刊行されました。出版後すぐにAmazonランキングで実践経営・リーダーシップ管理、経営学、企業・経営の3部門で1位を獲得。紀伊国屋書店をはじめとする全国5書店でもランキング1位を獲得するなど、大きな反響を呼んでいます。
さらに、2025年のビジネス書グランプリでは総合グランプリとマネジメント部門1位という栄誉に輝きました。増刷も決定し、2.5万部が発行されるなど、多くのビジネスパーソンから支持を得ている一冊と言えるでしょう。
本書の全体像
初めて部下を持つ人向けの指南書
本書は、プレイヤーからマネジャーへと役割が変わったばかりの人々を主な対象としています。優秀なプレイヤーがマネジャーとして抜擢されることは、ビジネスの世界では珍しくありません。しかし、プレイヤーとして求められるスキルとマネジャーとして求められるスキルは大きく異なります。
橋本さんは自身の経験から、マネジャーになったときに「我流で教えてしまう」ことが、多くの問題の原因になると指摘しています。伝えたことをメンバーが実行できず成果が出せないことで、マネジャーとメンバーの人間関係がギクシャクし、どんどん悪化してしまうという悪循環に陥りがちです。
本書では、そうした「マネジメントの無免許運転」から脱却し、組織パフォーマンスを最大化させるための具体的な方法が示されています。
7つの基本原則
本書で提唱されている「リードマネジメント」は、以下の7つの基本原則に基づいています。
第一に、「マネジメントは技術である」という認識です。マネジメントはセンスや才能ではなく、学習と実践によって誰でも習得できる技術だと位置づけています。
第二に、「部下を変えることはできないが、部下自身は変わることができる」という前提です。他者の行動を直接コントロールすることはできませんが、部下が自ら変わりたいと思うような環境や関係性を構築することはできます。
第三に、「信頼関係の構築が最優先」という原則です。部下との信頼関係なくして、効果的なマネジメントは成り立ちません。
第四に、「個人の成長支援」の重要性です。部下一人ひとりの成長を支援することが、チーム全体の成果向上につながります。
第五に、「水質管理」の必要性です。組織の「水質」、つまり組織文化や雰囲気を良好に保つことが、メンバーのパフォーマンスに大きく影響します。
第六に、「委任する技術」の習得です。適切に仕事を委任することで、マネジャー自身の仕事の質と量を管理し、メンバーの成長も促進できます。
第七に、「仕組み化する技術」の活用です。好業績と良好な人間関係を両立させるためには、効果的な仕組みづくりが欠かせません。
これらの原則に基づき、本書では具体的なマネジメント技術が体系的に解説されています。
第1章:部下との信頼関係構築の基本
初対面で信頼を勝ち取る方法
部下との関係において、最も重要なのは信頼関係の構築です。橋本さんは、初対面の段階から信頼関係を築くための具体的な方法を提示しています。
まず重要なのは、「マネージャーとチームメンバーの関係性は、バスの運転手と乗客に似ている」という考え方です。チーム・組織をバスとするなら、マネージャーは運転手、メンバーは乗客です。運転手である以上、どこへ向かうのか、どのルートで進むのかを明確に示す必要があります。
初対面の場では、自己紹介の仕方一つで印象が大きく変わります。単なる経歴や役職の紹介ではなく、「なぜその仕事をしているのか」「どのような価値観を持っているのか」を伝えることで、人間としての共感を得やすくなります。また、相手の話に真摯に耳を傾け、質問を通じて関心を示すことも、信頼構築の第一歩となります。
コミュニケーションの基本姿勢
信頼関係を築くためのコミュニケーションの基本姿勢として、橋本さんは「リードマネジメント」の考え方を提唱しています。これは、部下の内発的変化を手助けする手法で、他者が行動を直接選択させることはできないという前提に立っています。
具体的には、指示や命令ではなく、質問を通じて部下自身が考える機会を提供することが重要です。「どうすればいいと思う?」「あなたならどうする?」といった問いかけを通じて、部下の主体性を引き出します。
また、一方的に話すのではなく、「聴く」ことに重点を置いたコミュニケーションを心がけることも大切です。部下の話を遮らず、最後まで聞き、理解しようとする姿勢が、信頼関係の構築につながります。
信頼関係を深める日常の習慣
信頼関係は一朝一夕で築けるものではありません。日々の小さな積み重ねが、やがて強固な信頼関係へと発展していきます。
橋本さんは、約束を守ることの重要性を強調しています。どんなに小さな約束でも必ず守り、もし守れない場合は事前に連絡して謝罪するという基本的な姿勢が、信頼の基盤となります。
また、定期的な1on1ミーティングの実施も推奨しています。業務の進捗確認だけでなく、部下の考えや感情を理解する機会として活用することで、より深い信頼関係を築くことができます。
さらに、部下の成功や努力を認め、適切に評価することも重要です。具体的な行動や成果を指摘して褒めることで、部下は自分が見られていると感じ、信頼感が高まります。
第2章:仕事の教え方・伝え方
指示の出し方の基本
仕事の指示を出す際、多くのマネジャーが陥りがちな罠があります。それは、「自分にとって当たり前のことは、部下にとっても当たり前」と思い込んでしまうことです。橋本さんは、この思い込みを捨て、明確で具体的な指示を出すことの重要性を説いています。
効果的な指示の出し方として、以下のポイントが挙げられています。まず、「何のために」その仕事をするのかという目的を明確に伝えること。次に、「いつまでに」「どのレベルで」完了させるべきかという期待値を具体的に示すこと。そして、「どのように」進めるべきかという方法についても、部下の経験や能力に応じて詳細に伝えることが大切です。
また、指示を出した後は、部下に復唱してもらうことで理解度を確認する習慣も推奨されています。「今の指示内容を確認のために教えてもらえますか?」と尋ねることで、認識のズレを早期に発見し、修正することができます。
「教えること」と「任せること」のバランス
マネジメントにおいて難しいのは、「教えること」と「任せること」のバランスです。過度に教えすぎると部下の自主性が育たず、逆に任せすぎると失敗のリスクが高まります。
橋本さんは、部下の成長段階に応じたアプローチを提案しています。初心者には詳細に教え、経験を積むにつれて徐々に裁量を広げていくという段階的な方法です。具体的には、「見せる」→「一緒にやる」→「やらせてみる」→「任せる」という4段階のプロセスを踏むことで、部下の成長を促しながら、失敗のリスクも最小限に抑えることができます。
また、任せる際には「何を」任せるのかを明確にすることも重要です。目標だけを示して方法は任せる場合もあれば、方法まで指定する場合もあります。状況や部下の能力に応じて、適切な「任せ方」を選ぶことがマネジャーの腕の見せどころとなります。
フィードバックの与え方
フィードバックは部下の成長に欠かせない要素ですが、その与え方によって効果は大きく異なります。橋本さんは、効果的なフィードバックの与え方として、「SBIモデル」を紹介しています。
SBIとは、Situation(状況)、Behavior(行動)、Impact(影響)の頭文字を取ったもので、「いつ、どこで」「どのような行動をしたか」「それがどのような影響をもたらしたか」を具体的に伝えるフレームワークです。例えば、「昨日のプレゼンで(状況)、あなたが顧客の質問に的確に回答した(行動)おかげで、契約につながりました(影響)」というように伝えます。
また、フィードバックを与える際のタイミングも重要です。できるだけ行動の直後に行うことで、部下は自分の行動と結果の因果関係を明確に理解することができます。定期的な評価面談だけでなく、日常的な「その場フィードバック」を心がけることが推奨されています。
第3章:部下のモチベーション管理
やる気を引き出す声かけの技術
部下のモチベーションを高めることは、マネジャーの重要な役割の一つです。橋本さんは、モチベーションを外発的なものと内発的なものに分け、特に内発的モチベーションを引き出すことの重要性を強調しています。
内発的モチベーションを引き出す声かけとして、「あなたならできる」という信頼のメッセージを伝えることが効果的です。過去の成功体験を思い出させたり、小さな成功を積み重ねる機会を提供したりすることで、自己効力感を高めることができます。
また、仕事の意義や目的を繰り返し伝えることも重要です。「なぜこの仕事が重要なのか」「誰のためになるのか」を理解することで、部下は自分の仕事に価値を見出し、モチベーションを高めることができます。
さらに、部下の自律性を尊重する声かけも効果的です。「どうやって進めるのがいいと思う?」「あなたのアイデアを聞かせてほしい」といった問いかけを通じて、部下に主体性と責任感を持たせることができます。
部下のタイプ別対応法
部下は一人ひとり異なる性格や価値観を持っています。橋本さんは、部下のタイプを理解し、それぞれに適した対応をすることの重要性を説いています。
例えば、成果志向が強い部下には、明確な目標と評価基準を示し、達成感を味わえる機会を多く提供することが効果的です。一方、関係性を重視する部下には、チームの一員としての価値を認め、協力して成果を上げる喜びを共有することが大切です。
また、細部にこだわる完璧主義タイプの部下には、期待値を明確に伝え、必要以上の労力を使わないよう適切な指導をすることが求められます。反対に、大局的な視点を持つ部下には、詳細な計画立案や進捗管理のサポートが必要になることもあります。
重要なのは、部下のタイプを「良い・悪い」で判断するのではなく、それぞれの特性を活かす方法を考えることです。多様性を認め、個々の強みを引き出すマネジメントが、チーム全体の成果向上につながります。
モチベーション低下の兆候と対処法
部下のモチベーション低下には、いくつかの兆候があります。橋本さんは、これらの兆候を早期に発見し、適切に対処することの重要性を説いています。
モチベーション低下の兆候としては、遅刻や欠勤の増加、会話の減少、表情の暗さ、仕事の質の低下などが挙げられます。こうした変化に気づいたら、まずは1on1ミーティングなどの場を設け、部下の話に耳を傾けることが大切です。
対処法としては、まず部下の状況を理解することから始めます。仕事上の問題なのか、私生活の問題なのか、あるいはその両方なのかを把握し、適切なサポートを提供します。仕事上の問題であれば、業務の再分配や目標の見直し、スキルアップの機会提供などが効果的です。
また、小さな成功体験を積み重ねる機会を意図的に作ることも重要です。達成可能な小さな目標を設定し、それを達成したら必ず認め、褒めることで、自己効力感を回復させることができます。
さらに、チーム全体の雰囲気も重要な要素です。橋本さんは「水質管理」という概念を提唱し、組織の「水質」、つまり雰囲気や文化が良好であれば、個々のメンバーのモチベーションも自然と高まると説いています。
第4章:問題社員への対応術
遅刻・欠勤が多い部下への対応
遅刻や欠勤が多い部下は、マネジャーにとって頭の痛い問題です。橋本さんは、こうした問題に対して、まず「なぜ」そうなっているのかを理解することから始めるべきだと提案しています。
遅刻や欠勤の背景には、単なる怠慢ではなく、健康上の問題や家庭の事情、仕事へのモチベーション低下など、様々な要因が考えられます。まずは1on1ミーティングなどの場で、部下自身に状況を話してもらい、根本的な原因を探ることが重要です。
原因が明らかになったら、それに応じた対応を取ります。例えば、健康上の問題であれば、適切な医療機関の受診を勧めたり、一時的に業務負荷を軽減したりすることが考えられます。家庭の事情であれば、フレックスタイム制の活用や一時的なテレワークの許可など、柔軟な対応を検討することも有効です。
また、単に「遅刻するな」と叱るのではなく、「チームの一員として期待されている」というメッセージを伝え、責任感を持たせることも大切です。ただし、改善が見られない場合は、明確なルールと罰則を設け、毅然とした態度で臨むことも必要になります。
仕事の質が低い部下の育て方
仕事の質が低い部下に対しては、まず「質が低い」と感じる具体的な点を明確にすることが重要です。橋本さんは、漠然とした批判ではなく、具体的なフィードバックを通じて改善を促すことを推奨しています。
例えば、「この報告書は良くない」ではなく、「この報告書のデータ分析が不十分で、結論に説得力がない」というように、具体的に何が問題なのかを伝えます。そして、どうすれば改善できるのかについても、具体的な指導を行います。
また、仕事の質が低い原因が、スキル不足なのか、理解不足なのか、あるいはモチベーション低下なのかを見極めることも重要です。スキル不足であれば研修や勉強会の機会を提供し、理解不足であれば丁寧な説明を心がけ、モチベーション低下であればその原因に対処する必要があります。
さらに、小さな成功体験を積み重ねることで自信をつけさせる方法も効果的です。最初は簡単な仕事から任せ、成功体験を積ませることで、徐々に難易度の高い仕事にチャレンジさせていきます。
反抗的な態度への向き合い方
反抗的な態度を示す部下への対応は、マネジャーにとって特に難しい課題です。橋本さんは、まずその反抗の背景にある感情や考えを理解することの重要性を強調しています。
反抗的な態度の背後には、不満や不安、不信感などの感情が隠れていることが多いです。1on1ミーティングなどの場で、部下の話に真摯に耳を傾け、その感情の根源を探ることが第一歩となります。
また、感情的になって対立するのではなく、冷静に事実ベースで話し合うことも重要です。「あなたの態度が悪い」という感情的な批判ではなく、「先日のミーティングで、あなたが〇〇と発言したことで、チームの雰囲気が悪くなった」というように、具体的な事実に基づいて話し合います。
さらに、部下の意見や提案に耳を傾け、可能な範囲で取り入れることも、反抗的な態度を和らげる効果があります。自分の意見が尊重されていると感じることで、部下は組織への帰属意識を高め、協力的な姿勢を示すようになることが多いです。
ただし、明らかに不適切な行動や発言に対しては、毅然とした態度で対応することも必要です。組織のルールや価値観に反する行動は、明確に指摘し、改善を求めることが重要です。
第5章:評価とフィードバック
公平な評価の仕方
評価は部下の成長と組織の発展に欠かせない要素ですが、その公平性を保つことは容易ではありません。橋本さんは、公平な評価のために、いくつかの重要なポイントを提示しています。
まず、評価基準を明確にし、事前に部下と共有することが重要です。「何を」「どのように」評価するのかを明確にすることで、部下は何に注力すべきかを理解し、マネジャーも一貫した評価を行うことができます。
また、評価は感情や印象ではなく、具体的な事実や数値に基づいて行うことが大切です。「この四半期の売上目標達成率は120%で、特に新規顧客の獲得に貢献した」というように、具体的な成果を基に評価します。
さらに、評価の際には「ハロー効果」や「最近性効果」などの認知バイアスに注意することも重要です。ハロー効果とは、ある一面の評価が他の面の評価にも影響を与えてしまう現象で、最近性効果とは、最近の出来事が評価全体に大きな影響を与えてしまう現象です。こうしたバイアスを避けるために、定期的にメモを取るなどの工夫が必要です。
効果的なフィードバック面談の進め方
フィードバック面談は、部下の成長を促す重要な機会です。橋本さんは、効果的なフィードバック面談の進め方として、「SBIモデル」の活用を推奨しています。
SBIモデルとは、Situation(状況)、Behavior(行動)、Impact(影響)の頭文字を取ったもので、「いつ、どこで」「どのような行動をしたか」「それがどのような影響をもたらしたか」を具体的に伝えるフレームワークです。
また、フィードバック面談では、部下自身に振り返りを促すことも重要です。「この四半期で最も成功したと思うことは何ですか?」「次の四半期で改善したいことは何ですか?」といった質問を通じて、部下自身の気づきを促します。
さらに、フィードバックは一方的な評価ではなく、双方向のコミュニケーションであることを意識することが大切です。部下の意見や感想に耳を傾け、必要に応じて評価を修正する柔軟性も持ち合わせることが求められます。
成長を促す褒め方と叱り方
部下の成長を促すためには、適切な褒め方と叱り方を身につけることが重要です。橋本さんは、効果的な褒め方として、具体的な行動や成果を指摘し、その影響や価値を伝えることを推奨しています。
例えば、「良い仕事をしたね」という漠然とした褒め方ではなく、「このプレゼンテーションは、データの分析が深く、説得力のある提案になっていたので、クライアントの信頼を得ることができた」というように、具体的に何が良かったのか、それがどのような価値をもたらしたのかを伝えます。
一方、叱る際には、人格を否定するのではなく、特定の行動や結果に焦点を当てることが重要です。「君はいつもこうだ」という人格攻撃ではなく、「この報告書の提出が遅れたことで、チーム全体のスケジュールに影響が出た」というように、具体的な行動とその影響を伝えます。
また、叱る際には、プライバシーに配慮し、他のメンバーの前ではなく、個別に話をすることも大切です。そして、叱った後には必ず改善のための具体的なアドバイスや支援を提供することで、部下の成長を促します。
第6章:チームビルディングの極意
チームの一体感を高める方法
チームの一体感は、組織のパフォーマンスに大きな影響を与えます。橋本さんは、チームの一体感を高めるためのいくつかの方法を提案しています。
まず、共通の目標や価値観を明確にし、チーム全体で共有することが重要です。「私たちは何を目指しているのか」「どのような価値観を大切にしているのか」を明確にすることで、メンバーは同じ方向を向いて進むことができます。
また、定期的なチームミーティングやイベントを通じて、メンバー間のコミュニケーションを促進することも効果的です。業務に関する情報共有だけでなく、時には仕事を離れた場でのコミュニケーションも、チームの一体感を高めるのに役立ちます。
さらに、チーム内での役割や貢献を可視化し、互いの存在価値を認め合う文化を醸成することも大切です。「誰がどのような役割を担い、どのように貢献しているのか」を明確にすることで、メンバーは互いを尊重し、協力し合うようになります。
部下同士の対立への対処法
チーム内で部下同士の対立が生じることは珍しくありません。橋本さんは、こうした対立に対して、まず中立的な立場で双方の話を聞くことの重要性を強調しています。
対立が生じた場合、まずは個別に面談を行い、それぞれの視点や感情を理解します。その際、一方の肩を持つのではなく、中立的な立場で話を聞くことが重要です。
次に、必要に応じて双方を交えた話し合いの場を設け、互いの視点や考えを共有する機会を提供します。その際、マネジャーはファシリテーターとして、建設的な対話が行われるよう導くことが求められます。
また、対立の原因が業務上の問題である場合は、業務プロセスや役割分担の見直しなど、システム的な解決策を検討することも重要です。個人間の問題に還元するのではなく、組織やチームの仕組みとして改善できる点がないかを考えることが大切です。
風通しの良い職場づくり
風通しの良い職場は、メンバーのモチベーションを高め、創造性を促進します。橋本さんは、風通しの良い職場づくりのために、オープンなコミュニケーションを奨励することの重要性を説いています。
まず、マネジャー自身が率先して情報を共有し、透明性を保つことが大切です。重要な決定や変更については、できるだけ早く、正確に情報を伝えることで、メンバーの不安や憶測を減らすことができます。
また、メンバーが自由に意見や提案を出せる環境を整えることも重要です。定期的なブレインストーミングセッションや提案制度を設けるなど、メンバーの声を積極的に取り入れる仕組みを作ることが効果的です。
さらに、失敗を恐れずにチャレンジできる文化を醸成することも、風通しの良い職場づくりには欠かせません。失敗を責めるのではなく、学びの機会として捉え、次に活かす姿勢を示すことで、メンバーは安心して新しいことに挑戦できるようになります。
第7章:自己成長と部下育成の両立
マネージャー自身の成長計画
マネージャーとしての成功には、自己成長が欠かせません。橋本さんは、マネージャー自身の成長計画の重要性を強調しています。
まず、自己の強みと弱みを客観的に分析し、改善すべき点を明確にすることが重要です。360度評価やメンターからのフィードバックなど、多角的な視点から自己を見つめ直す機会を定期的に設けることが効果的です。
また、具体的な成長目標を設定し、それに向けた行動計画を立てることも大切です。「半年後までにプロジェクトマネジメントのスキルを向上させる」といった具体的な目標を立て、そのために必要な学習や経験を計画的に積んでいきます。
さらに、他のマネージャーやリーダーとの交流を通じて、新しい視点や方法を学ぶことも有効です。社内外のネットワークを活用し、異なる環境や業界のマネージャーとの対話から、自己の成長につながる気づきを得ることができます。
時間管理と優先順位付け
マネージャーにとって、時間は最も貴重なリソースの一つです。橋本さんは、効果的な時間管理と優先順位付けの方法を提案しています。
まず、「緊急度」と「重要度」の2軸で仕事を分類し、優先順位を決めることが重要です。特に、「重要だが緊急ではない」仕事、例えば長期的な戦略立案や人材育成などに時間を割くことが、マネージャーとしての成功につながります。
また、「委任できる仕事」と「自分でやるべき仕事」を明確に区別し、積極的に委任することも効果的です。部下の成長機会を提供しながら、自分の時間を創出するという一石二鳥の効果が期待できます。
さらに、「時間泥棒」を特定し、排除することも重要です。不必要な会議や中断、過度なメールチェックなど、生産性を下げる要因を特定し、改善することで、より効果的な時間の使い方が可能になります。
メンター的役割の果たし方
マネージャーは単なる業務の管理者ではなく、部下の成長を支援するメンターとしての役割も担います。橋本さんは、効果的なメンターシップの実践方法を提案しています。
まず、部下一人ひとりの強みと成長可能性を見極め、それに応じた成長機会を提供することが重要です。「この部下にはこの経験が必要だ」という視点で、挑戦的な仕事を任せたり、新しいスキルを習得する機会を提供したりすることが効果的です。
また、メンターとしての関わり方は、「教える」だけでなく「共に考える」姿勢が重要です。答えを与えるのではなく、質問を通じて部下自身が考え、気づきを得るプロセスを支援することで、より深い学びと成長が促進されます。
さらに、自身の経験や失敗談を共有することも、メンターとして重要な役割です。「私もかつてこのような失敗をした」「このように乗り越えた」という経験談は、部下にとって大きな励みとなり、困難に立ち向かう勇気を与えることができます。
橋本さんは、メンターとしての最も重要な役割は「部下の可能性を信じること」だと強調しています。部下が自分自身の可能性に気づいていない場合でも、マネジャーが可能性を信じ、期待を示すことで、部下は自信を持ち、成長への意欲を高めることができます。
本書から学ぶ実践的テクニック
明日から使える部下育成フレーズ集
橋本さんは、日常のコミュニケーションの中で使える、部下の成長を促すフレーズをいくつか紹介しています。
例えば、指示を出す際には「〇〇をしてほしいのですが、どうやって進めるのがいいと思いますか?」と問いかけることで、部下の主体性を引き出すことができます。また、「あなたならどうする?」という質問は、部下の思考を促し、自ら考える習慣を身につけさせる効果があります。
フィードバックを行う際には、「〇〇の場面で、あなたが△△したことで、□□という良い結果につながりました」というように、具体的な状況、行動、結果を明示することで、部下は何が評価されているのかを明確に理解することができます。
また、部下が失敗した際には、「次はどうすればうまくいくと思う?」と問いかけることで、失敗を責めるのではなく、学びの機会として捉える姿勢を示すことができます。
困った場面別対応事例
本書では、マネジャーがよく直面する困った場面とその対応事例も紹介されています。
例えば、部下が期限を守らない場合、単に叱るのではなく、「なぜ期限に間に合わなかったのか」を理解することから始めます。その上で、「次回はどうすれば期限に間に合わせることができるか」を一緒に考え、具体的な改善策を立てることが大切です。
また、部下同士の対立が生じた場合は、まず個別に話を聞き、それぞれの視点や感情を理解します。その上で、必要に応じて双方を交えた話し合いの場を設け、互いの理解を深める機会を提供することが効果的です。
さらに、モチベーションが低下している部下に対しては、まずその原因を探ることが重要です。仕事の内容、人間関係、評価への不満など、様々な要因が考えられますが、原因に応じた適切なサポートを提供することで、モチベーションの回復を促すことができます。
1on1ミーティングの効果的な進め方
1on1ミーティングは、部下との信頼関係を築き、成長を支援する重要な機会です。橋本さんは、効果的な1on1ミーティングの進め方として、いくつかのポイントを挙げています。
まず、定期的に開催することが重要です。週に一度、あるいは隔週に一度など、定期的なリズムを作ることで、部下も自分の考えや課題を整理して臨むことができます。
また、場所や雰囲気にも配慮が必要です。オフィスの会議室だけでなく、時にはカフェなどのリラックスできる場所で行うことで、より率直な対話が生まれることもあります。
内容については、業務の進捗確認だけでなく、部下の考えや感情、キャリアの希望なども話題にすることが大切です。「最近、どんなことに取り組んでいる?」「何か困っていることはある?」「将来的にどんなキャリアを目指したい?」といった質問を通じて、部下の内面を理解する機会とします。
また、1on1ミーティングでは、部下が話す時間を多く取ることが重要です。マネジャーが一方的に話すのではなく、部下の話に耳を傾け、質問を通じて思考を深める支援をすることが、効果的な1on1ミーティングの鍵となります。
感想・レビュー
初めての管理職に寄り添う視点の価値
本書の最大の魅力は、初めて部下を持つ立場になった人の不安や戸惑いに寄り添う視点にあります。多くのマネジメント本が「こうあるべき」という理想論を語る中、本書は著者自身の失敗経験から学んだ実践的なアドバイスを提供しています。
特に印象的だったのは、「マネジメントの無免許運転」という表現です。確かに、多くの人がマネジメントの正式な訓練を受けないまま、部下を持つ立場になっています。そうした状況に対して、「マネジメントは技術であり、学べば誰でも習得できる」という明確なメッセージは、初めての管理職にとって大きな励みとなるでしょう。
また、「部下を変えることはできないが、部下自身は変わることができる」という視点も新鮮でした。他者をコントロールしようとするのではなく、部下が自ら変わりたいと思える環境や関係性を作ることの重要性を説いている点は、現代のマネジメントに必要な考え方だと感じました。
実践的アドバイスの具体性と実用性
本書のもう一つの魅力は、実践的アドバイスの具体性と実用性です。理論だけでなく、「明日から使えるフレーズ」や「困った場面別対応事例」など、すぐに実践できる具体的な方法が豊富に紹介されています。
例えば、「SBIモデル」を用いたフィードバックの方法や、「見せる→一緒にやる→やらせてみる→任せる」という段階的な指導法など、具体的なフレームワークは非常に参考になります。これらの方法は、マネジメントの経験が浅い人でも理解しやすく、すぐに実践できる点が大きな強みです。
また、「リードマネジメント」という新しいアプローチも興味深いものでした。選択理論心理学をベースにした考え方は、従来の指示・命令型のマネジメントとは一線を画し、部下の内発的な変化を促す点で、現代の働き方に適したアプローチだと感じました。
著者の経験に基づく説得力
本書の説得力は、著者の橋本拓也さん自身の経験に裏打ちされている点にあります。新規事業の責任者として失敗した経験や、「7年間マネジメントの無免許運転期間」を経て、試行錯誤の末にたどり着いた方法論には、リアリティと共感を覚えます。
特に、「我流で教えてしまう」ことの危険性や、プレイヤーとして優秀だった人がマネジャーとして必ずしも成功するとは限らないという指摘は、多くのビジネスパーソンが直面する現実を的確に捉えています。
また、2万人以上の研修実績や、130人以上のメンバーマネジメントの経験など、著者の豊富な実績も、本書の内容に信頼性を与えています。理論だけでなく、実践から得られた知見が詰まった本書は、マネジメントの現場で本当に役立つ一冊だと言えるでしょう。
まとめ
『部下をもったらいちばん最初に読む本』は、マネジメントを「センスや経験に頼るものではなく、学べば誰でも身につけられる技術」として捉え、具体的な方法論を提示した実践的な一冊です。選択理論心理学をベースにした「リードマネジメント」という新しいアプローチは、部下の内発的変化を促し、組織のパフォーマンスを最大化する効果的な手法として注目に値します。初めて部下を持つ人はもちろん、経験豊富なマネジャーにとっても、自身のマネジメントスタイルを見直す貴重な機会となるでしょう。