2023年のM-1グランプリで優勝した令和ロマンの髙比良くるまさんが、漫才という芸能を徹底的に分析した書籍「漫才過剰考察」。
タイトル通り、漫才を過剰なまでに考え抜いた本書は、単なる優勝者の回顧録ではなく、日本の笑いの本質に迫る意欲作となっています。
M-1の歴史、東西南北の地域による笑いの違い、さらには漫才の未来まで、髙比良さんの鋭い視点で紐解かれた漫才論は、お笑いファンならずとも読む価値のある一冊です。
M-1王者が綴る漫才論の決定版
令和ロマン・髙比良くるまのプロフィール
髙比良くるまさんは1994年9月3日生まれ、東京都練馬区出身の漫才師です。本名は髙比良直樹。本郷中学校・高等学校を経て、慶應義塾大学文学部に進学しました。大学時代にはお笑いサークル「お笑い道場O-keis」に所属し、そこで現在の相方である松井ケムリさんと出会います。
髙比良さんは自身を「頭でっかちに考えてここまで来てしまった人間」と表現しています。この言葉通り、彼の思考は常に分析的で、漫才という芸能を論理的に解体し、再構築する姿勢が特徴的です。
令和ロマンは2018年4月に結成され、当初は「魔人無骨」という名前で活動していました。2019年に現在の「令和ロマン」に改名し、2020年には第7回NHK新人お笑い大賞で優勝。2022年には第43回ABCお笑いグランプリでも優勝を果たしています。
そして2023年、M-1グランプリで見事優勝。第1回大会の「中川家」以来のトップバッターからの優勝であり、歴代王者の中で最短となる芸歴5年9ヶ月での優勝という快挙を成し遂げました。さらに2024年には、M-1王者として異例の出場を果たした第45回ABCお笑いグランプリでも優勝するなど、現在最も勢いのある漫才師の一人です。
書籍の成り立ち
「漫才過剰考察」は、「いつだって、コレカラが面白い」をコンセプトとするWebマガジン「コレカラ」にて2023年7月よりスタートした連載「令和ロマン・髙比良くるまの漫才過剰考察」に、大幅な書き下ろしを加えた一冊です。
髙比良さん自身は「不定期で連載していたものを本にするはずが、付け足して削ってまた足して、ほとんど知らない文章が出来てしまいました。9ヶ月かかりました。人生で一番辛かったです」と語っています。
また、髙比良さんは「活字が読めない人間」と自称していますが、「文章が書けないのは恥ずかしい」という思いや、「またコロナ禍みたいになって舞台に立てる場がなくなるかもしれない」という危機感から、Web連載のオファーを受けたといいます。
本書は2024年11月8日に辰巳出版から発売され、漫才ファンを中心に大きな反響を呼んでいます。
M-1グランプリの徹底考察
2015年から2023年までの流れ
本書の中核を成すのが、M-1グランプリの徹底分析です。髙比良さんは2015年から2023年までのM-1を「漫才勝負」の時代(2015~2018年)と「笑わせ合い」の時代(2019~2023年)に分けて考察しています。
「漫才勝負」の時代は、トレンディエンジェル、銀シャリ、とろサーモン、霜降り明星が優勝した時期です。この時期のM-1は、漫才の技術や構成の巧みさが評価される傾向がありました。特に髙比良さんは、2018年に優勝した霜降り明星の粗品さんを「M-1優勝を目指すうえで参考にした」と語っており、本書には粗品さんとの2万字を超える特別対談も収録されています。
一方、「笑わせ合い」の時代は、マヂカルラブリー、錦鯉、ウエストランド、そして令和ロマン自身が優勝した時期です。この時期は、純粋な「笑い」の要素がより重視されるようになったと髙比良さんは分析しています。
特に自身が優勝した2023年のM-1については、決勝直前のインタビューや優勝後の振り返りを交えながら、詳細に分析しています。トップバッターという不利な立ち位置からどのように優勝を勝ち取ったのか、その戦略と心境が赤裸々に綴られています。
2024年M-1予想の視点
本書の大きな特徴の一つが、2024年のM-1グランプリについての予想分析です。髙比良さんは、過去のデータや傾向を基に、2024年のM-1でどのようなコンビが評価されるのか、審査員はどのような点に注目するのかを予測しています。
現役のM-1王者が次回大会の予想をするという異例の試みですが、髙比良さんの分析は単なる予想に留まらず、現代の漫才がどのような方向に進化しているのかを示す羅針盤となっています。
また、「令和ロマンは2024年に優勝できるのか?」という自問自答も含まれており、連覇への意欲と課題が率直に語られています。
漫才における東西南北の地域性
東西漫才の違い
髙比良さんは本書で、漫才が日本各地で異なる形に発展してきた背景を詳しく分析しています。特に東西の漫才の違いについては、言葉遣いや間の取り方、笑いのツボなど、細部にわたって考察されています。
東京を中心とする関東の漫才と、大阪を中心とする関西の漫才では、そもそもの「笑い」に対する価値観が異なります。関西では日常的に笑いが求められる文化があり、漫才も生活の一部として発展してきました。一方、関東では「芸」としての側面が強く、より洗練された構成や演出が重視される傾向があります。
髙比良さんは、こうした東西の違いを踏まえた上で、全国区で受ける漫才とは何かを探求しています。M-1という全国的な舞台で勝つためには、地域性を超えた普遍的な笑いを生み出す必要があり、そのためのヒントが随所に散りばめられています。
南北の笑いの特徴
東西だけでなく、南北の笑いの特徴についても本書では詳しく触れられています。北海道や東北と、九州や沖縄では、気候や文化の違いから生まれる笑いのセンスの差異が存在します。
例えば、北国では長い冬を乗り切るための「温かみのある笑い」が好まれる傾向があり、南国では開放的で陽気な「明るい笑い」が親しまれています。こうした地域ごとの特性を理解することが、より幅広い観客に受け入れられる漫才を作る上で重要だと髙比良さんは説きます。
また、インターネットの普及により地域差が薄れつつある現代においても、根底に流れる「笑いのDNA」は地域によって異なると指摘し、それを意識した漫才作りの重要性を強調しています。
髙比良くるまの漫才哲学
感覚よりも論理を重視する姿勢
「漫才過剰考察」の中で、特に際立つのが髙比良さんの「感覚よりも論理を重視する」というスタンスです。多くの漫才師が「感覚」や「経験」を頼りに笑いを作る中で、髙比良さんは漫才を「構造化されたエンターテインメント」として捉えています。



